池袋発、16フリップ手がける重く太く煙たいビートに、仙人掌、イスギ、Mr.パグ、個性溢れる3MCが独特の世界観を歌い、描くグループ・MONJU。 彼らの2ndep、「Black de.ep」はちょうど一年前のリリースだが、いつ聴いてもどこで聴いても、その瞬間その場所を夜のストリートに変えてしまう、魔法の一枚。 溶け出した空に紙一枚広げ ざらついたビーツ 今宵もヒッチハイク イルな街 理由なきペンが走る どこにでも染み込んでく魔法のインク モブディープみたく夜聴きたくなる 何も言わずに首が振れるヤツ ある種のセラピー とっくにヘヴィシック アンダーグラウンドに投与するプラスチック Yo 東京に新風吹かすべく 風化させず息づかすブラックネス 地下でいつしか一致団結 共通のヴァイブスで一段上にアクセス 都会の暮らしにリズムをもたらす クラクションの代わりに気の利いた1ヴァース 街の信号が青に変わる ブレーキランプの代わりに目を光らす -Blackdeep 不慣れな耳コピリリック起こしなので誤記はご勘弁を。 表題曲である「Blackdeep」、一番バッターのイスギのヴァースが、このグループ、このepの魅力を完璧に言い表していると思う。 土臭い、とか、煙たい、とか。 ヒップホップの音を形容する独特の形容詞。 実際土の香りがするわけではないし、実際に煙にむせぶわけでもない。 それは経験として、現場で音源で積み重なってきたことであり、暗黙の了解としてBボーイズの血肉となって染み付いては受け継がれてきたDNAであり、言葉で説明するとこうなるって話。 代名詞でいえばビートマイナーズっぽくあり、ブーキャンっぽくってモブディープっぽいってこと。 そして言い換えれば、クロいってこと。 ヘヴィでファットであることを美徳とするブラックミュージックを正統に後継したヒップホップにとってもこの、クロさは美徳。 土着的な音とか、なんとなくあるブラックプロイテーションに通ずる渋い男の美学。 クロいってこともまた、実態を伴わない感覚的な表現だが、このクロさをパッケージした日本語ラップ作品としてはこの「Black de.ep」、その名もズバリだが深く、最高峰の作品だと思う。 醸し出されるそのクロいイメージはやはり、16フリップのビートに拠るところが大きい。 重めのドラム、ビートを叩き、刻むリズムはルーツ・レゲエに通ずるほどの重く、深く沈みこむダウンビート。 まさにモブディープ、モブディープのクラシックのひとつである「Give Up The Goods」と同じウワモノをグっと遅めのビートに落とし込んだ「Black deep」が一発目に持ってこられてるあたりに、今作の、このグループの魅力が黒光りしている。 ひとつひとつの楽器、パーツがぶっといので、隙間を多く持ったトラックでもスカスカ感はまったくなく、ドラムやベースの残響が下地になり、その間を3MCのリリックが埋めていく。 キックの圧力がハンパないなー、この曲。 サビなし、展開なしで淡々と刻まれる「U.N.K.U.T」は続く「Udekiki」へのイントロのよう。 アブストラクトな音の鳴りも延長線上にあるイメージで、その「Udekiki」は、スタッカートのようにピンポイント、強く短く打ち込まれるキック、スネアの上にうねるビートが行ったり来たり、オルガンの音色も演出する不穏な空気が強烈に夜を感じさせる仕上がり。 GZAの「Liquid Swords」にも通ずる、延々続くギターリフとスタンダードなドラムブレイクの組み合わせが、作品中でもストレートなヒップホップを感じさせる「whats up Mr.manhole」。 リズムに関してはアッパーだけど、リリックはタイトルにあるとおり、穴倉の話、とことんディープな世界だ。 レゲエのフレーバー全開、裏でノる、完全黒人ノリな「Open The Gate」は個人的に一番のお気に入り。 ルーディーさ極まれり、ヘッドバング必至、真夜中のパーティーチューン。 夜な夜な繰り広げられるBedでのパーティーの雰囲気が伝わってきて、単純にノれる。 そして忘れちゃならない3MCのリリックとフロウ。 バトルMCとしても名を馳せるラッパーたちなので、ライミングは安定して堅い。 中でもイスギのヴァースは、ケツでまくってくるスタイルがバトルの名残を感じさせる。 軽くキザにすら思えるスマートでウィットな物言いが単純にカッコいい。 シーダやベス、ジャスワナにノリキヨと、今をときめく日本語ラップ最前線で客演引っ張りだこの仙人掌は、それもうなずける耳なじみのいい声質が際立つ。 抜けがいいし、一語一句の発音もクリアで、耳に入ってくる。 反骨心が心底に根付いた姿勢もストリクトリーBボーイスタンスで好感持てる。 Mr.パグはオレ的に言うところのヘッドフォン張り付き系の声の持ち主。 そしてそれを最大限に活かした粘着系のラップスタイルで、このタイプのMCって存在感あるんだよね。 だから「whats up Mr.manhole」にしても「Black deep」にしても、同じラインを繰り返すフック担当は理に適ってると思う。 それぞれに確固たるスタイルがあるんだけど、基本は自分たちのクロさ、クロくあることに対して自覚的で自発的。 グループのアイデンティティーがしっかりしてるからバラバラな感じがしない。 言葉にできない、モブディープでブーキャンで真っ黒な世界観は、音と言葉、両面で彼らが意識的に作り出しているからの説得力がある。 様々なスタイルが乱立する日本語ラップの世界でも、異彩を放つ。 あの時代を生きてきた人ならビビっと来ちゃう、直球直輸入なスタイルだけど、決してパクリでもなんでもない。 ニューヨーク産に一歩もひけをとらないぶっといサウンドとクロいリズムに、乗っかるはIKBレペゼン、サンクス前にたむろするBボーイたちのリアル。 音圧にヤラレるもよし、詞世界に浸るのもよし、ハイファイかローファイ、振り切れちゃってるヘッドフォンで聴くのをおススメする。
by blue-red-cherry
| 2009-05-19 16:12
| 音楽
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