Paper Trail

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現行の米・ヒップホップシーンにおいて、キングの称号を認められているT.Iの最新作、「Paper Trail」
最新作つっても去年の秋のアルバムなんだけど、語れるほど聴き込んではいないが、なんともメジャー感のある華やかな作品で、たまーに聴きたくなるんだよね。
意外とクセになる。

そもそも90’s東海岸ヒップホップ原理主義者だったこともあって、いまではボーダレスに良いものは良いって聴いてるけど、サウスは縁遠い。
だから語れるほどの蓄積がないんだけど、このアルバムは一聴して、パブリックイメージなサウスっぽさは感じなかったんだよね。
とはいえオレの言ってるところのサウスっぽさってリル・ジョンだったりスリー・シックス・マフィアだったりで止まってたりするから、ここ最近のサウスっぽさなのかも知れないけど。
ってリル・ウェインのときにも書いてたわww
時代性、地域性を越えて普遍的に聴きやすいヒップホップ。
派手目なシンセの鳴り方や、ボンボンスピーカーを突いてくる尖ったキックの耳触りにサウスの良さを残しつつ、歌乗ってても違和感ないメロだったり、聴きやすさの工夫がそこかしこに施されてる気がする。

リュダクリスをゲストに迎えた新旧サウスのスター競演、「On Top Of The World」の脳天気な明るさがいい。
日本人ならどうしてものまねこを思い出さずにいられない、マイアヒサンプリングの「Live Your Life」と、この突きぬけ加減はさすがアメリカって感じ。
ハリウッド映画にも通ずる豪快さ。
言葉がわからないってのも大きく作用しているが、単純に楽しむっきゃないって気持ちにさせてくれる。
シンセで引っ張るメロは無駄に壮大な広がりがあって、これまたスケールの大きさを感じさせる。
エレピとシンセでちょっぴり物悲しい雰囲気のメロを奏でる「Whatever You Like」では、トラックのメロウな進行に合わせてT.Iのラップもフックだけでなくヴァースも歌うようなフロウ。
音のカラフルさに比べ、スタンダードな押韻スタイルが逆に映えてるT.Iだけど、この曲は完成度高い。
続けて「No Matter What」は生音に近い質感のドラムをベースに、あでやかなオルガンとシンセ、これまた煌びやかなサウンド。
こう、ゴリゴリのヒップホップっていまいちテレビ映えしないイメージがあるんだけど、こういうバンドサウンド、ロックやオルタネイティブとの垣根に近いような音だと、テレビで歌ってる姿が目に浮かぶ。
アルバムでいう、この4曲目から7曲目の流れがお気に入りで、このアルバムを引っ張ってくるときはこの辺をヘビーローテーションしてる。

00年代初期のネプチューンズ産R&Bっぽい、乾いたドラム+シンセで作る甘いメロ、フックのアッシャー似の男声ヴォーカルもしっとり歌い上げる「Porn Star」もいいね。
美メロ系でいくとジョン・レジェンドが華を添える「Slide Show」も、ミッドテンポの骨組みにピアノとシンセが上手に合わさって、生とデジがうまく混ざってる気持ちいい1曲。

とまあ、聴き手を選ばないというか、ヒップホップ好きにとってもポップス好きにとっても耳馴染みがよく、間口の広い良作ぞろい。
このアプローチはある意味新鮮で、ヘッズには現在進行形で飽きさせないだろうし、ライトなリスナーにはとにかく見た目の派手さもあるし、メロもあるしビートもあるしの分かりやすさがたまらない。
売れるよなー、わかるなー。
このメジャー感は今んとこ、日本では感じられない(ラップに限らず)。
でもBボーイとしてはやっぱり、というかこのアルバムを手に取るきっかけになった「Swagga Like Us」のカッコよさがダントツの優勝だ。
M.I.Aの声ネタループが、ミニマムなループを繰り返すデジタルサウンドと相俟って中毒性が異様に高い。
クリプスの「Grindin’」とか、バスタの「Put Your Hands Where My Eyes Could Se」とか、この手の渋いんだけど独創的なビートって周期的に生まれるよね。
感心する。

音寄りで、耳触りの感想でしかないけど、とにかく良くできたアルバムだと思う。
全体的に派手だけど作りは丁寧。
リスナーを選ばないバランスの良さも目立つし、売れるのが分かる良作。
こういうのが次代にクラシックとして受け継がれていくのかな。

…しかしワーナーはYou Tubeと徹底抗戦なのか…この時代に…もったいないというかなんというか。
by blue-red-cherry | 2009-05-19 20:48 | 音楽
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