金曜ロードショーの録画にて「千と千尋の神隠し」を視聴。 例によってタイミングを逃し、一生見ねえだろうなあと天邪鬼モードに入っていたところを連れに薦められて見てみた。 そしてバッチリ堪能するっていう、食わず嫌いの典型的なパターンに陥った。 神々が癒しを求めて訪れる温泉旅館、っていう油屋の設定がいい。 宮崎アニメは現実世界とファンタジーの世界がすごく近い位置にいて、境界線も曖昧で、でもその中身はありえないくらいに対照的。 一方で実際の道後温泉や雅叙園を模したという油屋の内外観だったり、ルックスの部分で既視感を持たせることで、現実とファンタジーをないまぜにする(ありそうな旅館に人外の者がいる体とか)にすることでよりそのファンタジー感が際立つ。 日常に潜む神秘性というか、表裏一体、神々やらその類のものの存在を強く感じさせる。 とはいえそれ自体はおいそれと見聞きできるものではないし、ある種人の心の写し鏡だったりするので、それゆえに時代感、世相やメッセージみたいなものを読み取れるんだろう。 油屋に話を戻すと、周辺の町並みを含め、極彩色で描かれた全体のトーンが美しい。 鮮やかでカラフルな色味を宮崎フィルタで薄ぼんやりと包んだ柔らかくって明るい色合い。 あの色使いもまた、けばけばしい実際の世界との確かな距離感を生み出している。 訪れる神々や、待ち受ける人と蛙たちもいい。 どんなに恐ろしい設定のキャラでもどこか愛嬌がある。 ひたすらに純なカオナシ、粋でいなせな釜爺あたりはツボだった。 湯婆婆、銭婆の姉妹もいかにも宮崎アニメな存在感で、千尋の成長には欠かせない壁(と後押し)に。 舞台にキャラ、あらゆる設定部分を柔らかく描くことで間口を広げ、その中にエグ目のメッセージやらエピソードを自然に盛り込む。 両親が豚にさせられる話だって、豚全般のエピソードは結構エグいし、死に体のハクやオクサレ様とか、あの辺の見せ方の生々しさは強烈だ。 少年少女の爽やかな成長物語、で終わらない(終わらせない)のはこういう細かいディテールにヒントが散りばめられてるからだったりする。 深読みさせるのは釣り針垂らされてるからだもんなー。 湯屋=売春宿の話ってのも、この作品自体未見だったしそれにまつわる文献もスルーだったけど、見ててすぐに繋がった。 そこに深いメッセージがあったとは思えないけど。 単純に少女が様々な困難に打ち勝って成長していく物語として、素晴らしい作品だと思う。 オレたちが「ラピュタ」や「ナウシカ」をはじめて見たとき、環境や倫理観、そういったテーマに気づくことができただろうか。 きっとこの作品を見た少年少女は、人外なる者たちが多数登場する奇譚に胸をときめかせ、ちょっと大人になるのだろう。 とやかく言うのはおっさん、おばさんの暇潰しでいい。 少なくとも2度は楽しめる、そういう意味でもやっぱり優れた作品だと思った。
by blue-red-cherry
| 2009-06-08 13:55
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