日本代表、欧州遠征初戦はオランダ戦。 親善試合にも関わらず、陽気にオレンジ一色で染まったスタジアムは日本のそれとはまったく違う雰囲気。 毎週末Jのピッチで見ている選手たちと、毎週末スカパーで夜な夜な追いかけている欧州トップリーグの選手たちの名前が交互に呼ばれ、同じフレームに入る映像もよくよく考えると違和感があったが、世界と戦うってこういうことなんだなっていまさらながらに思った。 そんなミーハー心はさておき、マタイセンがまとめてくれた。 「日本代表はゴール前20メートルまでのパス回しは素晴らしい。完ぺきだったが、その後の怖さが全くない。あのFWが相手では、劣勢だった前半もゴールを奪われるイメージを一度も持つことはなかった」 これが善戦していた前半の評価。 「後半は選手交代もあったが、日本が勝手に疲れて止まった。あのサッカーは90分間できない」 これが後半、そして日本の標榜するサッカーへの、オランダ代表センターバックからの解答だ。 前半、支配していたとは言わないが、日本はゲームを互角以上に進めていた。 ハードワークだったとはいえ、プレスを闇雲にかけていたのではない。 フォワードのチェイシング、きちんと2陣、3陣も続いたが、相手陣内を取りどころと定めたガチプレスではなく、プレスの本分はハーフライン過ぎた辺りから。 4枚4枚のブロック作りの意識は高く、岡崎はもちろん、俊輔もかなり意識的にブロック作りに腐心。 中央では遠藤と長谷部がそれぞれ、静の遠藤、動の長谷部というバランスが非常に良く、苦し紛れのフィードをしっかりチェックしていた。 ベースを作ったこのブロック意識は一糸乱れることなく、攻撃時に多少場を空けたとしても、強い責任感で必ず戻り、己のゾーンで激しく上下動する様はまさしく、世界が日本を評するときに使われる「勤勉」そのもの。 良かったのはブロック作りではない。 ここまではある程度のチームであればできること。 日本の良さが出たのはここからで、運動量で1.5倍くらい、オランダを凌駕した中盤、サイドバックを中心に、常に数的優位を作りつづけた。 オランダの連携があまりよくなく、運動量も少なかったので選手同士の距離がいまひとつだったこともあるが、ボールが入った時点で受けた選手が孤立していれば、次のムーブに入る辺りで2、3人での囲い込みが出来ていた。 集中力と判断の良さ、俊敏性、もちろん運動量。 列強の比べても遜色なくやれる部分を生かした戦い方は確かに日本的であり、実際オランダに何もさせず、苛立ちを与えた。 これは見ていて見事だったと思う。 同じ日本人のオレの目から見ても、生真面目なくらい真面目なサッカー。 これは世界を驚かす、というよりも世界を嫌がらせるサッカーとしてある一定の効果を得られると思う。 プレスがかからない部分での守備に関しても、単純なロングフィードであれば闘莉王、中澤の高さで充分対応できることが見えたし、ロッベンにファン・ペルシー、名うてのドリブラーを前にしても2枚でコースを切れば無力化することができる(ロッベンとの1対1を止めた内田は見事だった。というか攻撃面では物足りなかったが、守備での頑張りは見直した)。 まあ正直オランダの出来がどうだったか、というのはある。 でもほとんどの選手はリーグ戦真っ最中、ロッベンにしてもペルシーにしてもスナイデルにしても各クラブで好調を維持しているだけに、コンディションは悪くなかったはず。 チームとしてのオートマティズムに欠けた印象で、オランダはオランダで課題があるんだと思う。 だから、この前半の「世界を嫌がらせる」サッカーがベスト8クラスのほかのチームにどこまで通用するかは判断が難しいところ。 イタリア辺りには効きそうな気がするんだけど、果たしてスペインが相手だった場合、あのプレスをかいくぐるくらいのスキルがあるんじゃないかっていう。 スペースを与えず、局面でハードなプレスをかけつづければ、ある程度はやれる、これは認めていい部分かと。 そしてまったく怖くなかったというアタッカー陣だけど、まあそう言われるわな。 一方で「ゴール前20メートルまでのパス回しは素晴らしい」、多少リップサービス(とフォロー)もあるだろうし鵜呑みにする気はないが、これも事実。 特に自陣中央で奪ったりセカンドを拾ったりしたところから、遠藤、長谷部、憲剛、俊輔、玉田らが絡んだ細かいパス回しはなかなかのもの。 実況いわくプレスが売りのひとつであるというオランダ相手に、針穴を通す正確さで、いなしながら前線まで運べていた。 それがアタッキングサードに入るとパタっとトーンダウン。 エリアに入る人数も少なければ、ここでこそ人数をかけたいのに、中盤は一発のパスで勝負したがるし、急にしおらしくなってしまう。 せっかく自分たちのパス回しでここまで運んできているのに、あと一歩運ぶところで消極的になるのが大いに気になる。 個人的には、アタッキングサード以降が通用しない、という判断はまったく同意できない。 通用しないどころか、チャレンジすら出来てないように映ってる。 マタイセンは「あのFWじゃ」といっているが、岡崎でも玉田でも、取れる形はあると思う。 数的優位を作って奪って、奪ってからも動きを落とさずに連携で運んできて、最後は個の力、じゃチームコンセプト微妙じゃね? 恐らく本田⊿は外から見ててそのフィニッシュの部分が足りないから自分が、という気持ちだったろうし、岡田監督も少なからず本田⊿の個に期待する向きはあったろうけど、うまくいかなかった結論として本田⊿にもっとチームプレーに徹しろ、だもんね。 それじゃあ本田⊿じゃなくっていいじゃんってなるよ。 ちょっとズレたが、まだこのチームに伸びしろがあるとするならば、その部分。 自陣での守備、アタッキングサードまでの運びは、運動量と技術と連携が結びついた日本らしい形が作れている。 さらにあと20メートルの部分で、運動量と技術と連携が結びついたチャレンジをもっともっとしていかないと、それでいて岡田ジャパンのサッカーが通用しない、という判断には至れないと思う。 出来てないどころかチャレンジすらままなってないから、だから岡田監督の信念が折れないんだと思う。 変な感じだけど…。 ただ、それは正しいかどうかは別問題。 多くの人が指摘しているし、見れば一目瞭然だったとおり、70分を境に日本の運動量は激減。 中盤でのプレスが失われ、守備機会の増えた最終ラインも徐々に疲弊し、寸でのところの足が伸びなくなってしまった。 ファン・ペルシーのゴールに関してはトラップしてからの寄せの甘さ、トラップをさせてしまった寄せの甘さ、その前のクロッサーに対する寄せの甘さ、もっといえばサイドに開いたところのセカンドへの寄せもなかった。 スナイデルのゴールはもう少し個人的で、あのわずかなリーチでコースが空けばやられる、これは正当に世界トップクラスの選手としての差として受け入れるべきかもしれない。 厳しくいけば、後ろのゴールマウスとの位置関係からしてあそこで蹴られれば入るという判断が出来ていなければいけないのかも。 チンチンに振られた3点目に関しては、機能していないプレスがかわされての結果ゆえに、ひとつはプレスを捨てるというアイデアもあったかもしれない。 随分前からオレも90分やり切って初めて世界を驚かせると思ってて、何度か息切れする様を見ては交代のカードを含めた総力戦で90分を見てみたいと思ってた。 今は集中した守備を維持した上での70分、ましてやアタッキングサードの部分で更なる運動量、連携を求めるとなると、この戦いがいかに無謀かが透けて見える。 しかしどうだろう…こと守備とビルドアップに関しては今のやり方じゃないとあそこまですらもやれないと思う。 あそこまでやれるのはチームとしてハードワークと助け合い、規律がしっかりしたサッカーをやれていて、そこに遠藤はじめ技術を組み込めているからだ。 ここからこのサッカーを貫くために考えたいことは3つ。 まずは現状できてることを90分続ける答えを出すこと。 これはもちろん、交代枠の使い方、もしくはスタメンの選び方に関わってくる。 もうとにかくハードワーク、スタミナがある選手を優先し、その中で技術と戦術理解力の高い選手をリストアップして当てはめる。 ベースは悪くないが、いくつかのポジションで入れ替えが必要かもしれない。 走れてる選手は多いし、うまくいってるのは事実なので、交代選手を組み込むことで活性化させるのが近道だと思ってるんだが、一向にその打ち手が見られないのが気になる。 中途半端に点取るぞ、的なカードしか入らないし、同じやり方でベースアップ、再構築するようなカードの切られ方って一度も見たことがない。 闘莉王と内田に一抹の不安は残るが、最終ラインには90分是が非でも踏ん張ってもらって、中盤のプレス、前線の動きで3枚カードを使ってコンパクトなサッカーを貫く。 まずは守備面でこれを遂行できなければこのやり方に未来はない。 あと2つは攻撃面、アタッキングサードでの選択をどうするか、ということ。 ひとつは上にも書いたとおり、奪うところまでと、奪ってからのビルドアップまでできている、運動量と連携、技術によるタスクを、アタッキングサードでも継続することだ。 今の中盤はブロックをアタッキングサードまで押し上げることはできるが、そのラインを保ったままの横パスが多く、ラストはマークを外しきれてないアタッカーを狙っては逸機、というパターンが多い。 押しあがった中盤と最前線が相手の最終ラインとがっぷりよつで正対するだけでは、ギャップも生まれないし、それこそ個の力に依るしかない。 1トップでいくならば最低でも片翼はマスト、憲剛、遠藤、長谷部から1人は受けての動き、裏への動きでかく乱し、可能であれば組み立てにサイドバック、逆からのアタックに逆サイドバック、最後の逆サイドバックはスクランブルに近いが、出し手含めて4~5枚は絡む形を作れないと崩せないだろう。 ビルドアップ時には、ビビるほど狭いエリアをワンタッチ、ツータッチで打開できる力があるんだから、それを前線でやる意思を見せたい。 当然リスクは高まるので、仕掛けた前線が攻撃の延長線上に切り替えの意識を持つのは最低限、トータルフットボールよろしく全体が前線のチャレンジに合わせて高い位置での守備に移行するのか、カウンター対策の人材を配置しておくのか、どちらにしろ身心ともにさらなる負荷がかかるのは間違いない。 もうひとつは今出来ている守備、ビルドアップの延長ではない、攻撃の形を作ること。 やれんのか、は置いといて、アーリーであればクロスを量産することは叶うだろうし、楔のボールを入れるまでは今のままでもできる。 この両方で絶対的なタレントを前線に置き、あとはそのターゲットマンとの崩しでゴールまで持ち込める選手を配置する。 ドリブラーがベストマッチかな。 守備の優位性を保つために、守備のタスクを最低限で許す選手を置くとすれば2人が限界だろう。 とにかく前線で仕事ができる選手を残し、あとはハードワークを重視する。 オランダ戦でタレント不足を声高に叫んでる人は、恐らく90分全力サッカーに限界説を唱えるヒトとイコールだと思われるし、すなわち森本待望論とか、本田⊿に期待する、この形なんじゃないだろうか。 どれができるかっつうと、どれも果てしなく難しいね。 柔らかな手応えと、山積みの課題。 岡田監督の決意はいかほどか。 貫く決意があれば、この先本田⊿は二度と呼ばれないはずだ。 人選が中途半端なところに、人員不足で苦労しているんだろうけど、まだ固まらない部分を感じる。 それにこの試合で交代カードを切らなかったことが何を意味するのか。 90分、11人であのサッカーを続けることが難しいのは随分前に分かっていたはずで、それでもそれを求めるのか、もしくは継続できる人材がいないのか。 それがワールドカップという舞台で行われるのが正しいかどうかは分からない。 でもこの戦いは、日本サッカーの偉大なるチャレンジになる可能性を秘めていると思う。 岡田監督のチャレンジがうまくいかなかったとしても10年20年かけてトライする意味のある問題だとも思う。 中途半端は一番良くない。 やるならやり切ってほしい。 オランダ戦を経て、やっぱり差は大きい、そんな結論しか見出せないのは哀しすぎるし、プアすぎる。 日本代表には夢がなくっちゃ。
by blue-red-cherry
| 2009-09-06 13:22
| サッカー(FC東京以外)
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