模倣犯

模倣犯_c0025217_22121351.jpg模倣犯_c0025217_22123076.jpg
模倣犯_c0025217_22125063.jpg模倣犯_c0025217_2213811.jpg
模倣犯_c0025217_22133020.jpg

宮部みゆき、「模倣犯」を読み終えた。
文庫本にして5冊、たいしたボリュームだったが、迫りくる筆力、引き込まれる展開力にもってかれ、一気に読み干した。



青年・栗橋浩美の純粋で短絡的な狂気を、神をも恐れぬ自己中心主義者にして厄介な知恵とそれを実行する力を持ったピースこと網川浩一が企てた未曾有の劇場型連続殺人事件によって生まれる加害者と被害者と傍観者の物語。
それに尽きる。
このミステリーのすごいところは、おぞましく類をみない殺人事件をめぐって加害者と被害者と第三者、それぞれの主観を章ごとに描き、それらが深く掘り下げられてるうちに絡み合い、しかも時間軸があまり行ったり来たりせずに流れていくことで盛り上がりを見せるっていう。
恐ろしい殺人を被害者視点や一般的な正義の論理だけで語るなら勧善懲悪の構図が容易にできあがるが(それ自体は嫌いではない)、まったく違う立場の主観を描くことで、その主観は主観でなくなり、その正論は脆弱なものとなり、物語は事件の表面を追いなぞるのではなく深く、深く掘り下げていく。
すべての主観を飲み込んだ上で究極の悪だと言い切れる(?)、ピースの存在がある種、真っ当な人間としての尊厳というか、守ってくれるのが皮肉だ。
純粋な悪から始まる負の連鎖の物語が、恐怖や哀しみ、怒り、失望に絶望、あらゆる感情をつなげては爆発させる。
登場人物からめまぐるしく発せられる感情のエネルギーの重みはずしりと心にのしかかってくる。

善悪を単純に切り離せない、複雑な人間模様を描きながら、一方で白黒つけろと迫ってくる物語。
ピースとヒロミの幼馴染にして大きな意味ある犠牲者の高井和明、彼の無念をはらさんと悪の袋小路に迷い込んでしまう和明の妹・由美子(ってことで残された両親の悲劇、触れられてないけど考えただけで鬱になる)。
行方不明の娘に心を狂わせ、死して戻ってくるのを迎えることもなく長く意識を眠らせたままの古川真智子と、その代わりに人生の最終盤にして矢面に立たされ、あまりにもむごい試練を与えられた老人・古川義男。
一家惨殺事件の生き残りにして、ピースの事件に深く巻き込まれていく塚田真一少年。
ピースはともかくヒロミにも陰こそあれど、情状の余地はなく、彼らではなく、被害者たちの物語がもうどれも救いようがなくって。
その念の渦巻き具合はハンパじゃないし、何度胸を詰まらせられたことか。
だからこそ、ルポライター・前畑滋子の視点や、第三者ゆえの空回り、また、多くの場面で劇場型犯罪にて重要な役割を果たすテレビとそれに関わる人々の「所詮第三者」的な立ち居地が引き立て役として欠かせなかった。
そして犯罪小説にしながら、無念に次ぐ無念を重ねる(ダメダメなわけじゃないけど)武上悦郎をはじめとした愛すべき警察諸君のため息も大いに、この物語に厚みを与えている。

それだけの要素を濃度薄めずに描いたんだ、この長さは納得できる。
これだけ書いてもまだ、多くの哀しみや怒りは原稿用紙の枠外に漂っているはずだ。
非常に読みがいのある作品だった。
映画版を見るのがちょっと、怖い。
by blue-red-cherry | 2008-11-21 22:13 |
<< 新橋 おらが GIANT KILLING >>