理由

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宮部みゆきのベストセラーのひとつ、「理由」を読んだ。
珍しく単行本で読んだが、通勤の友にしては重かったなあ。



「模倣犯」のあとにこれを読むのが果たして正しかったのかどうかはわからないが、「模倣犯」がひとつの事件に対し、関わったあらゆる立場の人間を主体にし、それぞれがそれぞれの立場で持った心の動きをエグりだしていた、そこが読み応えとなっていたのに対し、今回もひとつの事件に関わった様々な人々の様々な思いをパーツにするという手法は変えないながらもすべてが聞き手によるルポという形をとっているため、温度差がまず決定的に違う。
その温度差にまず、違和感を覚えた。
しかもこのルポは客観視されていることを主としているので、その取材が緻密になればなるほど、そこに描かれる発言の温度は低く冷たいものになる。
違和感こそあれど、それが悪かった、つまらなかったかといえばそんなこともない。
加害者、被害者、第三者、それぞれの主観でその違いを楽しむ話も面白かったが、前提として第三者がその置かれた環境の違う登場人物の声を聞き取り、正確に公平に綴っていく様は妙になまめかしく、ノンフィクションに近いリアリティがあった。
物語としてのダイナミックなうねりというか展開力に関しては多少、物足りなさも感じたが、淡々と綴られていくことで得られる興奮もある。

扱われているトピックスも、それこそ生活感が強い。
住空間であったり、家族のあり方であったり。
もちろん人の声を重ねつつも、それぞれの状況の描写(専門的な内容の説明)も怠らないのでそれがまた、蛇足なようで物語に厚みと信頼をもたらしている。
要はいろんなものの積み重ねでディテールを明らかにしていくんだが、その最後の最後、ミステリーとしては犯人を明らかにし、またその過程である程度、動機めいたものは匂わせているので結べているんだろうけど、これだけ人の声を聞いて構成してきたのにも関わらず、犯人にして被害者、この作品の闇の中の闇である八代祐司の声、死人に口なしはやむなしとしても彼に近しいものの声すらないこと。
ここに行間を読め、の最大級の余白を残して終わらせるあたりに、エンターテインメントの本質を感じさせられた。

事件のスケールやら、思いがけない展開やら、その類であればもっと楽しめるものがある。
しかし手法であったり、料理の仕方であったり、やはりベストセラー作家の力量を感じずにはいられない、完成度の高い作品であった。
by blue-red-cherry | 2008-12-12 23:10 |
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