NEXT EPISODE

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間違いなくオールドスクール、ミドルスクールと呼ばれた時代はひとつの黄金時代だったし、90年代のニューヨーク産に外れはない。
日本語ラップにしてもさんぴん前後の熱さ、その後もいくつかのトピックとなるアルバムがあった。
今でも洋邦問わず、あの頃は、と思い出しながら聴きたくなるアルバムが多数あるのが事実だが、ヒップホップという音楽は常に前に進んでいかなければいけないと思う。
演ってるほうは次々に新しい刺激を与えなければいけない。
時代に左右されない名盤を作るのはもちろん偉業だが、この音楽は常に刺激的でなければならない。
聴いてるほうに「古い」とか、いや古い新しいじゃないな、止まっちゃってる感を抱かれるようなことがあってはならないと思う。

前置きが長くなったが、SCARSの2ndアルバム「NEXT EPISODE」には新しい刺激が詰まっている。
生々しい剥き出しのストリート感を世に打ち出し、一気にプロップを得た1st以降、各自のソロ活動も盛んだった彼らがもう一度集まる意味。
前と同じじゃ意味がない、誰よりもアーティスト本人が分かってるんだろう。
A THUG、SEEDA、STICKY、MANNY、BAY4K。
一聴してそれとわかるラップのアイデンティティーを維持しつつ、次の次元に挑戦しようとする姿勢は好き嫌い別として、高く評価されるべき。


Come Back

Bach Logic手がける比較的オーソドックスなヒップホップトラック「Come Back」は、幕開けに相応しい仰々しさの一方でシンプルなループ、個性ある4人のMCもアルバムいちストレートに聴ける。
アグレッシブなキレがあるMANNY、変幻自在の声・フロウを聴かすSEEDA、渋さが中毒性を増してきたSTICKY、扇情的なBAY4K。
ここでBAY4Kが歌っている、何度目かの塀の中にいるリーダー、A THUGのソロが続く「Pain time」
投げっぱなしのライムフロウは唯一無二の存在感で、ここまでイントロ含めて3曲聴けば、現在進行形のストリートラップを体現するSCARSのベースの魅力を味わえる。


We accept~My Block

「We accept」のラガっぷりだったり、このアルバムでは次から次へチャレンジしてる曲が現れる。
最新のUSヒップホップへの傾倒を隠さないSEEDAが引っ張る部分は大きく、DJ TY-KOHを迎えたサウスナンバー「万券Hits」、オートチューン使いのメロウシット「ONEWAY LOVE」の新しさとその消化ぶりはさすがの一言に尽きる。
思えばSEEDAは「GREEN」から「花と雨」「街風」、「HEAVEN」とそのスキルを聴かせることに十二分に生かしてきており、ある種ヒップホップ的なスキル、ラップスキルの高さを見せ付けたのは久しぶり。
あからさまにジェイダキスやリルウェインを思い起こさせる笑い声もあそこまでやりきればカッコよく聴こえてくる。
ひとつのポジションに収まることができない、根っからのラッパーなんだと思う。
「万券Hits」はテーマもメイクマネーものでオケがサウスなダウンビート、前半戦と中盤、後半戦とゆるめのフロウ、詰め込み型、歌うスタイルと曲の中でも変化が楽しめる、かなりお気に入りの一曲。
「ONEWAY LOVE」はオートチューン使いもマッチしてるけど、援護射撃がメロウラップマスターのBRON Kだもんね。
「投げっぱなしの『…』」とかもう最高。
今のイケイケなテンションでSEEDAにはぜひ、アルバムを仕上げてもらいたいね。

進化してるといえばI-DeAビーツ!
ウェッサイ風味漂う「What U got」、↑のラガチューン「We accept」(DAG FORCEのサビ、めちゃくちゃ気持ちい、けどkill nobodyだったら何してもいいかつったらそんなことはないと思う)、SCARS×練馬ザファッカーな「S to N」はimpeach the presidentを下に敷きながらウッドベースで狂ったワンループを重ねる変態的な1曲と、この立て続けに異彩を発揮する3曲の並びが凄すぎる。
身内の失態をもネタにするっていうSCARSならではの「曝けだす」は、ラップのオケというよりはフリージャズ的なピアノを鳴らす激渋トラックで、所謂ヒップホップの枠に収まりきらないI-DeAらしさが出てる。
この人のトラックも、どんどん進化するなあ。

相変わらず煙たい話や日々勘ぐりあうとか、リリックの中身に共感できるところは多くないが、言いたいことがしっかりあって、それをきちんとラップのフォーマットにそって聴かせているところは(当たり前だけど)ハイレベル。
それに音、フロウ、スタイルとしてのラップアルバムとしては間違いなく他をリードする内容になっている。
ソロの活動も充実しているSEEDAやBAY4Kはともかく、このアルバムで抜群の存在感を発揮しているSTICKYは今、誰よりもソロ作が待ち遠しい。
08年最後の日にリリースされたこのアルバムが、09年の日本語ラップに与える影響は少なくないはずだ。
これこそ、「今の」日本語ラップ。
by blue-red-cherry | 2009-01-09 15:29 | 音楽
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