アーセナル×ローマ UEFAチャンピオンズリーグ ラウンド16 1stレグ

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若きタレントをずらりとそろえ、テクニックと運動量に裏付けされた鮮やかなパスサッカー。
組織、フィジカルが研ぎ澄まされたイタリアでそのアンチテーゼであるかのように生まれた、トップを置かない人とボールの動きで崩すゼロトップシステム。
一気に攻撃主義への揺り戻しが行われた昨今のサッカーにおいて少なくない役割を果たした2チームがぶつかったCLラウンド161stレグ、アーセナル×ローマを早朝、生視聴。
今を象徴するパスサッカー同士の戦い、は理想であり、現実は国内リーグ中位に沈み、ケガによる離脱者も多い両者の一戦となった。

腐ってもパスサッカーの先端を行くチームである。
代表戦でもクラブでも序盤は蹴り合い、なんて試合が少なくないが、ロングボールが中盤の選手を越えていく場面がほとんどない。
これは一試合通じて、でもあった。
マンUやリバプールのようなハイプレッシャーがなく、このレベルにしては珍しく中盤で持てる状況だったことや、ロングボールに即したフォワードを両者ともに擁してなかった、というのもあるが。

ゲームの主導権は90分、ほぼアーセナルが握った。
アウェー、しかもブチニッチの状態が良くないということでトッティとジュリオ・バチスタの便宜上2トップ、実質ゼロトップだったローマが手探り状態のところを人の動きでかく乱した。
ファン・ペルシーとベントナーの2トップかと思われたアーセナルはペルシーをトップに、左にベントナー、右にエブエをワイドに開かせ、バイタルをナスリが自在に使う、という戦い方。
これがハマる。
ダイヤモンド型のローマの中盤に対し、単純に人数で勝り、かつ予想外のポジショニングをすることでマークを絞らせず、アンカーのデ・ロッシを中心としたサイドにバイタルにギャップを作り出すことに成功した。
そのギャップにナスリがいやらしく顔を出す。
中盤のマークも曖昧、SBやCBとの受け渡しもままならなかったローマディフェンスに対しドリブルのコースは多岐に渡ったが、ナスリのドリブルがまたシルクタッチでさ。
インステップとトゥを使ってツーン、ツーンって鼻先で釣られる独特の間の生み出し方に対峙したディフェンスは安易に飛び込めないままディレイするのが精一杯。
このドリブルが自らのシュートコースを生み、ファン・ペルシーや両サイドハーフ、ボランチの飛び出しを促し、クリシーとサーニャのオーバーラップを誘発した。
クロスは寸でのところで跳ね返されることが多かったが、それでもローマの中盤は守備に追われての後追いなので、セカンドボールのほとんどはデニウソンとディアビーが確保していた。
いや、相手の中盤とのミスマッチを差し引いてもアーセナルのダブルボランチは良い仕事をしていた。
60分過ぎに早々に足を攣らせて退場したことが証明しているように、序盤からフルスロットルだったディアビーのボール奪取、展開、顔出しはチームに勢いを生むと同時にローマを自陣に張り付かせた。
主張の強い相方に対し90分黙々と仕事をこなしたデニウソンも見事だった。
守備ではカバーリングとインターセプト、攻めてはサイドハーフやナスリのフォローに奔走し、攻守のサポート役として機能した。
攻めて押し込む第一波としてのナスリ、高い位置での守備で相手に攻めることを許さなかった第二波としてのディアビーとデニウソン。
中盤の差がそのまま試合の趨勢を左右した。

決勝ゴールとなったPKだが、ペルシーの抜け方、体の使い方が巧かった。
メクセスの足はかかってたといえばかかってたが、倒したかといえば倒してない程度で、その前にしっかり体勢を作っていたドリブルの妙に尽きる。
ペルシーは得点シーン以外でも1トップで奮闘し、シュートチャンスこそ少なかったものの、スピードとボディバランスという武器を活かした飛び出し、ドリブルで多くのチャンスを作った。
飛び出しといえば、ローマはセンターの2人と両サイドバックの間を突かれていた。
実況解説ともにしきりに不安を口にしていたロリアが案じたとおりの低調なパフォーマンスで、ペルシーだけでなく、ナスリにもたびたびそのエリアを使われた。
そうそう、アーセナルのサイド攻撃、最後のクロスがまたアーセナルらしくってよかった。
ここでもボールを浮かさない!
クロスのほとんどは速いグラウンダーのパスで、その分確度も高く、幾度か決定的なシュートチャンスを作った。
多少のブレが許される浮かしたアーリークロスとは違いより正確さを期した攻めなので、サイドの崩しもきっちりフリーで中を見て上げられる深度まで仕上げる。
不調不調と言われていたが(よりローマが不調っていうのはヌキにして)、叩き込まれたDNAは伊達じゃない。
芝を舐めるように転がるグラウンダーのパスの応酬…美しい。

それだけやっときながらの1-0。
選手も監督もサポーターも納得いかないだろうなー。
件のサイドからの崩しや飛び出しで、最も多くの決定機に顔を出したのがベントナー。
トップが本職だけにサイドで窮屈そうに、だが懸命にそのポジションで脅威であろうと奮闘し、実際及第点の出来だったと思うが、いざ自分の勝負ターンでミスが出た。
責めるのは酷。
ペルシーもナスリも出来がよかっただけに、ここで決められないところにロナウドやメッシとの差を感じる。
しかし形を作るまでの動きは本当に見事で、アデバヨールやエドゥアルド・ダ・シルバに復帰の芽がある第2戦に向け、視界は暗くない。
楽観は出来ない結果だが、だからこそ気を引き締める材料にして、さらなる高みでパスサッカーを貫いてほしい。

一方いいところナシのローマ。
右SBのモッタが時折効果的なオーバーラップをかけ、わずかに外れた素晴らしいミドルを放ったこと。
後半開始直後の浮き足立った状況に乗じて攻めた数分。
ピサロ投入後に7:3で負けていたポゼッションを6:4程度にまで押し戻したこと。
それくらいかな、印象に残ったのは。
とにかく中盤での劣勢が響き、守備に追われた各選手は攻撃面での活躍の場も奪われた。
最終ラインの不安定さも全体を下げる要因になった。
メンバー不足は仕方ないが、あれでトッティをはじめ、前線の選手に仕事を求めるのは難しい。
そんな状況でのアウェーでの1点差での敗北、この結果は悪くない。
事実試合終了後、どちらにも笑顔はなかったが、アーセナルの面々の表情にこそ、悔しさがにじみ出ていた。
2週間でどこまで修正できるかわからないが、この試合でアーセナルにやられたシーン、次回反省して修正すべき課題はいくらでもある。
グループリーグではチェルシーを撃墜したホーム力が発動する可能性は、ないとは言い切れない。

ホーム力。
この試合、ローマのわずかな得点の望みであったトッティは何度も芝に足を取られ、スリップしていた。
何でもパスサッカーを志向するベンゲルは、ボールの動きをスムースにするため、いつも試合前に水を撒かせるらしい(解説の田中孝司いわく名古屋時代から)。
当然パスワークでも有利に働いたと思うが、トッティを、バチスタを、水分を多く含んだピッチが彼らを苦しめたことは間違いない。
昨今「味スタの芝」問題でホームチームが悩まされる姿を見てきている身としては、なんともいえない気分になった。
同じようなことがオリンピコで起こるのか。

メンバーも替わるだろうし、第2戦も俄然、見逃せない。
by blue-red-cherry | 2009-02-25 17:18 | サッカー(FC東京以外)
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