モダンタイムス

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ちょうど文庫版の「魔王」を読み終えたくらいのタイミングで、その続編というか関連作である「モダンタイムス」を友人に借り、読んだ。
通勤の友に単行本は重いよね。

さてこの「モダンタイムス」、青年漫画誌の「モーニング」で連載していたという。
週刊漫画誌を買わなくなって久しいが、果たしてどれくらいの読者が読んでいたのだろう。
ズラっと連載漫画が並ぶ中にある活字連載、オレが毎週買ってたら読んでたかどうか、微妙。
書き手のほうはたぶんに意識していたように思う。
その証拠に、都度話の流れが途切れるスパン(恐らく週刊の尺)であらすじとまではいかないが、主人公とそれを取り巻くキャラの設定をリマインドさせる記述がたびたび差し込まれる。
複雑、というほど入り乱れた相関関係ではないが、絵もなし、詳細を明かさない人間たちの相関図は確かに簡単でもなく、苦労がうかがえる。

そのほか演出にもいつもと違う、個人的には違和感に近いものを覚えた。
特に暴力的な描写。
拷問に関する記述があるんだけど、その生々しさは頭の中で即座に得が浮かぶリアリティがあり、穏やかに重みのある表現を選ぶ伊坂作品にしてはあまりに直接的で、驚いた。
細かいディテールでいえば登場人物の名づけ、あとがきで本人が「いい案が浮かばなかったから」といったような理由を明かしていたが、本人の名をもじった「井坂」というキャラのネーミングなど、深読みすれば巨大なシステムと「そうなっている」社会の話である以上、ネーミングなどにたいした意味はない、というメッセージに取れないこともないが、今までの作風であればそういうよく言えば大胆、悪く言えば雑なことはしていなかった。

最大の違和感が、主人公自体が物語の解釈を積極的に行うこと。
これはこういうことで、あれはそういう意味だったのか、次から次へと起こる事件や事象を主人公が誰よりも不思議がり、その真実を知りたがった末に主人公の解釈で意味づけがされるっていう。
伊坂作品に限ったことではないが、小説なんぞ百人百色の解釈や意見、感想があるはずで、ある程度行間を読め、というか含みを持たせることが当たり前な中、ちょっと親切すぎやしないか。
これまた深読みすれば、「そうなっている」ことって、「そうなっている」ことを見てみぬふりするというか、認めたくないものだったりするんだが、それをたびたびわからせようとする主人公の「そうなっている」ものへの解釈は、「そうなっている」ものに「そうなっているだけじゃない」という見方を持たせたいというメッセージに受け取れないこともない。
って、くどくてわかりづらいな、オレの書き方。

近未来の日本。
「魔王」を経たことにより、「魔王」を伏線として考えると、停滞を打ち破るためにドラスティックな改革(独裁に近い政権、9条改ざん、徴兵など)を経た日本。
テクノロジーやネットがより進化し、すべてがシステム化されている日本。
世と眺めに距離感を保ったちょっと不思議な能力をもった人たちがいる日本。
ストーリーや設定にも確かに興味深く惹かれるものがあったが、いつになく今回はメッセージが込められ、それがわかりやすくストーリーの表に顕在化していたように思った。
だからネタバレするようなストーリー、世界観の感想についてはあまり書くことがなかった。

で、そのメッセージ。
「考えろ」っていうのは「魔王」のときから繋がっているね。
無関心で不感症な若者たちへの警鐘、簡単に言えばそういうことになる。
それは「ヤバイぞ、無意識のうちにやられちゃってるぞ」っていうアラートなんだけど、どちらかというと「希望をもて」って言ってくれてると考えたほうが気持ちがいい。
まず無知は正すべき、それは正しいと思う。
鵜呑みにせず、すべてに懐疑的になるのではなく考えることを止めるな、もしくは考えることをはじめろっていうのはすごくわかるし大事なことだ。
そこに気づかせときながらこの話、ことあるごとに気づいた先にあるシステムの悪意の巨大な力をまざまざと見せ付ける。
すべてはシステムに組み込まれていて、一個人の起こすさざなみはおろか、時代ごとに沸き起こるムーブメントや革命すらもその一部、という強烈な事実で押し潰す。
それでも諦めない、しかし潰されていくレジスタンスの生き様は、「システム」の巨大さを訴え、その前における個々の弱さを知らしめるための物語なのか。
そんなことはないと思う。
無謀に見える主人公たちのチャレンジは清々しささえ覚える。
ここに諦観のススメがされてるとは到底思えない。
ダメだとわかっていたら何もしなければいいと迫りながら、といえばそんな人生でいいのかっと投げかける。
この青臭さこそが、伊坂作品の肝だと思うし、熱すぎず冷たすぎずな温度感に落ち着いたところでほっとした。

とまあいろいろ思うところはあったものの、感想よりは違和感が先に立つ、そんな作品だった。
by blue-red-cherry | 2009-03-13 16:06 |
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