ウォッチメン

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月曜日夕方のバルト9にて公開日の週明け早々、「ウォッチメン」を見てきた。
かねてからアメリカンコミック発のヒーローものには肩入れしてきたが、それらとは一線を画す、原作はそれまでのヒーロー観を根底から覆した傑作だの、是非問わず前評判の高さは相当なもの。
もちろんキネマ旬報やロードショー的ではなくk、映画秘宝的に、だけど。
映画はもちろんよかったし、「ダークナイト」に続いて揺さぶられた。
知れば知るほど原作を読まねばならない、という思いは強まっているが、現在再発のものも品切れ中、重版待ちなので、原作知らず、知識なしの時点で感想文を残しておく。
いつになくネタバレに次ぐネタバレなので、見ようと思っている人は絶対に読まないでください。






正直歴史には疎い。
この映画の柱のひとつとして、ニクソンが失脚しないで政権を維持しつつ、緊張感が極限にまで高まった米ソ冷戦下のアメリカを克明に描く、っていうのがあるんだけど、そこに関しては歴史力が薄いため、楽しみきれてない部分がある。
まあでもここは知ってればかなり深く楽しめるが、大体わかる、程度でも十分かな。
ただしこの極限まで緊張感を高めた戦時がベースになることでより、人類が窮すことになり、そういう状態だからこそこの映画の本筋であるヒーローの存在意義を強く考えさせられることにはなっている。

やっぱりこの作品は、ヒーロー性善説、とでもいうか、ヒーローとはなんぞやという命題を強烈に考えさせられる。
この80年代後半アメリカのパラレルワールドでは、ミニッツメン、ウォッチメンと呼ばれたヒーローたちが一般庶民に、人々の社会に認識されている。
バットマンやアイアンマンもそうだが、普通の人間より鍛えられた、もしくは異能の力を持った人間が、キャラクターを全面に出したコスチュームをまとい、正義のために悪と戦う。
言ってみれば最強の自警団、といったレベルで町の事件や事故を解決したかと思えば、政府公認、JFKの暗殺やベトナム戦争といった有事に裏で深く関与したシークレットエージェントとしての顔も持つ。
この市民社会にヒーローが溶け込んでいるというその設定を、まずは受け入れることが必要だ。
さらにこの作品における現状では、大統領のニクソンが発令したキーン条例により、ヒーローによる自治が法律違反とされている。
それにより廃業に追い込まれたヒーロー、この扱いを受けるヒーロー像がベースにあるって時点で所謂ヒーロー像は役に立たない。

この設定はまだ序の口だ。
引退したヒーローたちの生活は、その能力を保持しながらもいたって人間的だ。
彼らは悩み苦しめば愚痴をこぼすし、孤独を感じれば人肌求めセックスする。
浮気もするし、大事なところで勃たなかったりもする。
さらには自身を突き動かした正義を押し殺し、見てみぬふりまでするのだ。
ここに万能のヒーロー像は打ち砕かれる。

一方でヒーローを貫くロールシャッハや、人間を超越したDr.マンハッタンの存在もいびつだ。
ロールシャッハの正義は自己のトラウマに起因し、彼の徹底した悪の排除は自己に潜む暴力性や悪と戦っているようで、また、顔を持たず見るものに自己の認識をゆだねるロールシャッハテストを模したマスクからして、無力な正義、矛盾したものを感じる。
彼が正義を訴え、ウォッチメンとして活動し続けようともがけばもがくほど軋轢が生まれ、孤独がより色濃くなる。
しかし彼は正しい。
正論はときに正解ではなくなってしまう。
そんな彼を見続けるのは辛く悲しいが、ナイトオウルの中の人、ダニエルとの友情に少しだけ、温かい気持ちになれた。
ちょっとそれたが普通のヒーローにここまでの苦行は与えられない。
ダークナイトシリーズのバットマンの苦悩と近しいものがある。
そういう意味ではこっちのほうが正しいアメリカンコミックヒーローなんだろうな。
そしてDr.マンハッタン。
人々にその存在を神格化された彼は瞬間移動に物質の創造・破壊、巨大化も分身も思いのまま、まさしく彼こそが超人だ。
しかしそんなDr.マンハッタンですら一般社会と接点を持たせ、そして消えぬ人の心をそれこそ、オジマンディアスが利用したように、描き出すことで彼のヒーロー像ですら打ち砕く。
不慮の事故で超人化したDr.マンハッタンだが、徐々に人の心を失っていく彼は3人に分裂してシルク・スペクターを愛撫するシーンに象徴されているように、人々との間に感情・ものの考え方、越えられない壁を持ち、理解しあえず苦しむ。
そこであっさりと虫けら扱いしてほっぽりだすことをせず、眼前に迫った人類滅亡の危機を回避しようとしたのは、シルク・スペクターへの情であり、天文学的数字の確立を乗り越えて成り立つ人間ひとりひとりの生、その存在の奇跡を改めて思い知ったことだった。
もっともフィクション的で、所謂コミックでしかありえないキャラが人間の誕生の奇跡の前に自身の存在を揺るがされる。
さらにDr.マンハッタンに課せられた業は重く、ラスト、オジマンディアスによってDr.マンハッタンのパワーは人類数百万の犠牲を生み、それだけではなく、その犠牲によって米ソの緊張が解け、一旦の世界平和がもたらされてしまうっていう鬱展開。
この事実を前にDr.マンハッタンはひれ伏してしまう。
そしてこの事実にも屈することなく自らの正義を貫かんとせんロールシャッハを殺害する。
なんという悲劇…。
オジマンディアスやナイトオウル、シルク・スペクターにもそれぞれのトラウマや鬱展開があったりするが、このロールシャッハとDr.マンハッタンのストーリーの重さったら。
おおっと、忘れてた、初っ端で死んじゃうコメディアンこそアンチヒーローのメッセージがこもっているよね。
目的(=正義なんだけど)のために手段を選ばず、かといって自身がもっとも性善説を否定する、利己的な生き方を貫く。
その根底にあるのは、巨大なエネルギー(米ソ冷戦のパワーバランスを支えた核)、平和が必要とする犠牲、それらの前にはヒーローすらも無力である、というラストの鬱展開をとっくに知っていたという事実なんだよね。
アクの強いキャラクターだけど、冒頭での死を経ても回想シーンや挿入されるエピソードにことごとく関わってくる存在感、「ウォッチメン」を語る上で外せない重要人物。

日本のヒーローにだって悲哀や哀愁はある。
生い立ちや成り立ち、たとえば仮面ライダーの改造人間だってとらえようによっちゃ重い。
その存在理由と退治するところはハイライトなので描かれたりするんだけど、そのすべてまでは描かない、知らなくっていいことだった。
日々、ヒーローが一般社会で生きていくために生じる不具合は、そういうもんだから、の部分で、描かなくって良かった。
しかし原作者のアラン・ムーアはそれを覆した。
ある種当たり前だし、ある種タブーだったところを一気にぶち破った。
誰もがドラえもんの道具があったらって考えるけど、実際ドラえもんがこの世の中にいたらどうなるか。
のび太じゃなくって、知恵を欲望のためにためらわずに使える人間の手に渡ってしまったら。
ドラえもんは猫型ロボットで別物だけど、Dr.マンハッタンのようなジレンマを抱えうる存在なんだよな。
アラン・ムーアが「ウォッチメン」でやってることって、そういうことなんだと思う。
知っちゃいけないこと、知らないほうがいいっていわれてることって知りたいものだし、面白いんだよね。

人によって捉え方は違うだろうし、楽しみ方も違うはず。
この「ヒーロー観を覆す」設定を軸に見るだけで、重厚な余韻が残るが、その他場面場面でも優れた演出や迫力の映像が目白押しだ。
まずは冒頭のオジマンディアス(だったとわかるのは大ラスだけど)×コメディアンの格闘シーン。
この作品でのバトルで多く用いられているスーパースローを使ったシーンが早くも登場し、スタイリッシュさと迫力で早速もってかれる。
その流れで差し込まれるオープニングはボブディランの曲に乗せて、パラレルアメリカでのヒーローたちの変遷をフラッシュ的に差し込んだ実に手が込み、有機的なオープニング。
これに限らず全編にわたって作品を彩る音楽の数々はいちいち気が利いている。
ダニエルakaナイトオウルとローリーakaシルク・スペクターのファックシーンでBGMがハレルヤってのにはトバされるけどww
つかそのファックシーンがなんつうか、生々しくって、そこにはヒーローだってファックするんだぜって意味合いも込められていると思うんだけど(別の意味でジョンakaDr.マンハッタンとローリーの擬似4Pはすごい)、妙に迫ってくるものがある。
火星のCGもすごいな。
Dr.マンハッタンが作ったガラスの虚像の美しさは筆舌に尽くしがたい。
描写の面でいえばロールシャッハに関する2つの場面、彼のトラウマ回想シーンと、一時囚われた牢獄でのシーンの暴力描写は結構エグい。
これに対しては「片腕マシンガール」見といて耐性ができててよかったわ。
オジマンディアスとのラストバトルも印象的。
「映画やコミックとは違う」みたいなニュアンスの台詞のもとに、凡百のフィクションだったら切り札として焦らしのアイテムとして使われる爆破スイッチをすでに押してある、そこは止められないっていうリアリティー。
まあそれあっての鬱展開、呼び水だとはいえ、ここの徹底振りもかなり好き。
で、賛否両論のエンディングだけど、ミスター正論で通っているオレとしてはロールシャッハ、やったぜ!ってな感じで拍手!だったけどね。

うわー、書いたな、今回は。
詰め込みすぎだっつうの、この映画。
見る前に勉強しろ!とか、じゃないとわかんねえぞ!とか書いてる人いるけど、作ってるほうとしては原作知らない人にも楽しんで欲しいだろうし、そのために最大限努力してるだろう。
その努力は作品に表れていると思うし、予備知識なくてもなんかしらの得るものはあると思うけどね、オレは。
結局「ダークナイト」のDVDもまだ買ってないんだけど、あっちも買うし、こっちも買ってもう一度見たい。
そして原作、近日中に必ず手にして、感想文起こそうと思う。

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by blue-red-cherry | 2009-04-02 19:58 | 映画
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