今現役バリバリの日本語ラップヘッズを自認する10代やハタチ前後のコたちって、どこに琴線があるんだろう。
シーンの横への広がり、選択肢の幅はかつてないほどに広い。 それこそさんぴん前後って、さんぴんかLBか、みたいな選択肢しかなかったじゃん(深く掘ればいくらでもあったけど)。 その後ニトロのアルバムを契機とする00年前後のメジャー進出時代にしたって、こぞってメジャー化していく中、ポップ寄りりか否か、どちらにもアンチなインディペンデントか、という深化の仕方。 結果としてメジャーへの挑戦は、日本語ラップ全体を考えるといまだ成功を得られてないが、そこで学び、蓄積されたノウハウの伝播により今、日本語ラップのインディペンデントシーンはかつてないほどの活況を迎えている。 歌われるのは各々のリアルで、ハーコー系、アーバン系、文系、なんでもそろう。 何が支持されて何が支持されていないのか、骨までずっぽりのオッサンにはどれも面白く写ってしまうのだが、若いコたちにとってはどうなんだろう。 ![]() 前置きが長くなったが、いろいろな時代、いろいろな時期があった日本語ラップの歴史だが、その時々の「ヘッズ礼賛」アルバムみたいなのってあると思う。 ペイジャーとかニトロとか。 西も東も関係なく、抗えないカッコよさ、というか。 ヒップホップ的にカッコいいと認めざるを得ない、というか。 ジャスワナ待望のフルアルバム、「BLACK BOX」はまさにそれだと思う。 クイーンズ、ブルックリン、スタッテン、ハーレム、ブロンクス。 ペイジャーが90年代に体現したニューヨークの空気を、ジャスワナはまたここ2009年のニッポンに甦らせている。 90年代の東海岸ヒップホップへの最大級のオマージュを捧げたジャケット、ループミュージックの原点を感じさせる男のワンループ、クラシカルなビートと極上のウワモノが絡み合うサンプリングマジック。 トータルパッケージから発せられる雰囲気はまさに色あせない、90年代のニューヨーク、未来永劫変わらないカッコよさのグローバルスタンダードだ。 さらには乗せるラップのレベルの高さが日本語ラップのあるひとつの頂点を感じさせる。 韻の堅さに定評があるメガGのそれは、語頭語尾だけではなく語中を駆使してまで踏み倒す。 これによりライミング、フロウの幅が劇的に広がり、所謂押韻主義者が陥りがちな、韻にこだわるがゆえのむりくり感、韻にこだわるがゆえの単調なリズム、この辺りのデメリットから脱することに成功している。 対して相方のメシアTHEフライ。 メシアはメガGほど堅く、テクニカルな押韻こそ見せないが、もちろんライブラを代表するMCであり、名うてのバトルMCであるように、スキルの高さに疑いの余地はない。 しかし際立つのはその言葉選びと声質の良さ。 MSC、ライブラ印を想起させる詰め込み型のフロウで刻まれる言葉の数々は叙情的、新宿に湾岸地区、暗く黒く深い世界を耳から目に広げるビジュアライザーとしての一面が強く印象に残る。 変わらないヒップホップのカッコよさを凝縮したパッケージに、日本語ラップが到達したハイレベルなラップが乗っている。 そこになんら違和感がない、というのはすごいことだと思う。 ペイジャーを初めて聴いたとき、ああ、日本語でここまでカッコいいヒップホップが作れるんだって思ったその感覚。 15年のときを経て今、ジャスワナのアルバムを聴いて同じ感動を味わえた。 1曲1曲の出来も粒ぞろいで、アルバムへの評価としては最大級、ヒップホップで言えばマイク5本、捨て曲なしと言えるのでは。 12inchが切られた「BLACK BOX」と「ピエロスタイル」は確かに突出した中毒性と完成度を持つ代表曲だが、ほかの曲も負けていない。 というか、アルバム全体の流れがすばらしい。 ここ、アーティストとしての能力の高さがうかがえると思う。 イントロやインタールードに無駄がない。 幕開けの「INTRO」はウォームアップとばかりに同じ韻を渡すライムリレーで短いヴァースをキック。 推し曲の「BLACK BOX」前に挟み込まれた「SKIT(4:20)」ではウッドベースとギターがジャジーでメランコリックなムードを醸し出すトラックの上で次の曲へ誘うラップを聞かせている。 この辺の気の利かせ方、きっちりヴァースとフックで作りこんだ形ではないラップの使い方は聞き込んで鍛えたヒップホップIQの高さがにじみ出てて好感が持てる。 どちらも確固たるスタイルの持ち主同士なので、2MCの掛け合いながら、集団芸のマイクリレーに等しいくらいの面白さがある。 世に蔓延るワックMCに捧げられた「ピエロスタイル」ではもちろん、スキルを見せ付ける内容だけに真骨頂が聴ける。 地を這うようなベースがうなるビートの上で、遅れ気味に裏の拍に追いついてくるように言葉を詰めるメシア、センテンスではなく一語一語の韻を積み上げてラインを作るメガGのライムフロウの対比はスリリングで圧倒的。 確かにこの曲を前にしてお子ちゃまラッパーはひれ伏さざるを得ない。 「言葉は爆弾です」にも重みがある。 ラインやワードごとにマイクが行ったり来たりする掛け合いヴァースでこそ高いスキルを実感するが、ヴァースごとの役割分担も面白い。 目立つのがメガGのサードヴァースでのまくりっぷり。 ブルージーかつソウルフルなDL印のサンプリングサウンド、「東京頭脳戦争~時流に媚びない反逆者達~」ではメガG→メシア→メシア→メガG、というリレーでヴァースが構成されるが、最後のメガGのヴァースの尻上がりにテンションを上げていく押韻スタイルは頭抜けた力強さ。 「BLACK BOX」でのサードヴァースもヤバイんだよなあ。 きっちり数で分けるんじゃなくってランダムに次々にマイクが渡ってかつ、韻もフロウも崩れない。 ここの掛け合いは異常にカッコいいし、リリックの面でもスタイルの面でもブレない、さすがのコンビネーション。 やっぱこの曲が優勝だな。 両者のソロ曲とも色が出てて面白い。 ラッパ我リヤばりのライムフェチであり、誰よりもヒップホップヘッズなメガGはらしさ全開の「Ten Budz Commandments」。 もちろんビギーのあれのメガGバージョンだ。 でも単なるジャックで終わってないのがいい。 1から10までの数字を使った言葉遊び、テーマは大好きなBudz縛り。 1から10までひとつも同じようなライムはないし、つか、1曲通して何回踏んでるんだろうってくらい韻踏みまくり。 ビートとシンクロさせる遊びもあるし、ただ単にクラシックのビートでラップするだけのJackin’ 4なんちゃらの数倍価値があるし、リスペクトを感じる。 方やメシアの「サウスパーク」もすごい。 東京湾岸エリア、陰とか哀愁とか、淡々とフッドのリアルを描くメシアの詰め込みフロウがそんな慕情を次々に浮かばせる。 この質感は演歌や歌謡曲の域に通ずるものがあると思う。 白黒の風景が次々に眼に浮かんでくる。 フッドをレペゼンする曲数あれど、その場を知らない人たちにここまでその世界を言葉で伝えることができるって、やっぱりこの人、ビジュアライザーだ。 ゲストもいい仕事してる。 楽器の音色ひとつひとつ跳ねる質感が生音っぽさを強調するファンクナンバー、「旅は道連れ世は情け」での山仁のフックは数多のジャスワナ2MCのパンチラインを差し置いて、このアルバム屈指の印象的なライン(でもこの曲でもすごいのはメガGの3ヴァース目の仕上げ)。 綺麗なウワモノが夕焼けを想起させる「Entrance」でトップバッターを務める仙人掌もいいね。 高揚させられる。 BESのヴァースはリリックにこそいつもの深さがないが、フロウとビートの張り付き具合はさすがで、メシアの抑えたフロウと仙人掌、BESとの対比が美しいコントラスト。 ライブラのレーベルメイトを従えた「『613』」は安心の出来。 この曲のド頭はプライマルとメガGの掛け合いで始まるんだが、ここがもう圧倒的なカッコよさ。 「T.O.P RANKAZ」のフレーズを使った掛け合いに見られるように、メガGは随所に日本語ラップクラシックのラインを忍び込ませており、この辺がヘッズのハートを掴むんだよな。 マジで非の打ち所がないよ、このアルバム。 日本語ラップが好きでよかったと思えちゃうくらい、なんか圧倒的なレベル。 メロをなぞることで所謂「キャッチー」を称されるようなポップラップを聴いてる人にもぜひ聴いてもらいたい。 ラップの真なる価値は表面的なところだけではわからない。 一度聴いただけで頭から離れないパンチラインの数々。 言葉選びと高度なライム、フロウの繰り返し。 優れたライム、フロウがキャッチーであることは自明である。 耳を貸すべき。 耳を貸すべき、だチェキ、のが伝わるかなww
by blue-red-cherry
| 2009-04-09 19:03
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