シーダの7枚目のアルバム、タイトルに自身の名を冠した「SEEDA」。 衝撃の引退発言もあり、節目の一枚、総括するに足るタイトルだとは思うが、そんなセンチメンタルな雰囲気はまったくなく、限りなく09年の今、今だからこそ生まれた現在進行形のヒップホップであり、一切後ろを振り返らない、前向きなエナジーが詰まったアルバムだ。 シーダは最新作が最高傑作を地で行けてるラッパーだと思う。 寡作なプレーヤーが目立つ日本語ラップの世界において、年一、ハイペースなアルバム量産は異端に映るが、むしろ日常を切り取り、自らのライフスタイルを切り取る音楽であるヒップホップという音楽であれば、本人が語っているように意欲さえあれば当たり前のこと。 未発表曲がオフィシャルを凌駕するほど流通するアメリカのヒップホップを遠い目で羨んできた身としては、ようやくナチュラル・ボーン・ラッパーが出てきたか、という思いだ。 彼自身ここ数年、とりわけブログで発表する場を経てからは、現行のUSシーンへの抑えきれない興味を表していた。 スタイルこそ踏襲せど、発するものはどう転んでもオリジナル。 そこに憧れだけで走るフェイクな香りはしない。 彼が筋金入りのヒップホップ小僧だからこそ積み重ねられた7枚のアルバムというキャリアは、常に最前線、最先端を意識してきたからこそのカラフルなラインナップになっている。 それらはそのときどき、シーダの内と外、そのときどきのリアルが刻まれているが、積み重なってきているのは間違いなく、作品の完成度、パフォーマンスの完成度ともに成熟度が高まっている。 それは長く続く、ヒットしたコミックにおける作者の技量の成長にも通ずるものがある。 1巻と最終巻の絵柄じゃあ、密度も純度も違うでしょ。 何が言いたいかというと、これだけ言っといてオレ、「GREEN」より前を聴いたことがないっていうww 自戒です。 さて、「SEEDA」。 BLは全曲プロデュース、ではなく、シーダとともにアルバムトータルの監修に名を連ねている。 これは奏功しているように思う。 「花と雨」、「OUTLET BLUES」、それぞれ作品のまとまりはさすがのタイトさだったが、いかんせん飽きやすいという声も分からないでもない(オレは無類のBL好きなのでドーベルマンインクの2枚組も余裕だったw)。 それが今回、全曲BLで手がけるのではなく、ほかのプロデューサーのトラックもシーダと一緒になって選んでいくことで、全曲プロデュースならば無理してでも作るハメになったであろう、BLのど真ん中以外のテイストをBLが持たない才能で埋める作業ができた。 結果的にバランスはとれているし、ひとつひとつの粒も際立ったんじゃないだろうか。 曲順もすごく練られていて、通しで聴きやすくなっている。 そこにも経緯を表して、順に追っていこう。 まず「INTRO」はノリキヨのアルバムでシーダが客演したBLトラック、「Reason is…」のリテイクとも呼べるビートの上で、シーダがフリースタイルしている。 BLトラックはときに仰々しいくらいの派手さ、広がりがあるのでイントロ向き。 しかもこのリテイクは、生音っぽいアレンジで、ライブのステージでバンドをバックにステージに登場するシーダが目に浮かぶ、ラフでいてよくできたイントロだ。 続く2曲はbounce.comのインタビューにもあったが、「TERIYAKI BEEF」の余波を感じさせる2曲。 メジャー×インディーズの構図をぶち壊す「GET THAT JOB DONE」は、ラッパー・シーダの音楽ビジネスへのスタンスが叩きつけられる。 そのスタンスはバーバルとのそれで揶揄された「売名行為」を「ハッスル」だと言い切ったこともそうだし、「毎日歌詞書いてるし」という彼のスタイルの延長線上にある。 そんな彼はまさしく「インディーズだがメジャー」な存在になり得ていて、オリコンの壊れた物差しじゃ計れない。 OHLDのビートはシンコペ打ち込みを基本にしながら、メリハリのあるピアノ使いが面白い。 「ラジオのbeefはラップより大人?」と、件のビーフを直接的に言及するラインもある「DEAR JAPAN」は、そのヴァースのうちから対象は政治、日本全体へ、2ndヴァースでは海をも渡る壮大なメッセージソング。 歯に絹着せぬ物言いは、ラップがもつメッセージソングとしての機能を思い出させてくれる。 だが個人的には、1 st ヴァースのノリ、バーバルとのこと、その前のラインにもある「クラブのbeefはラップより喧嘩?」とか、もっと日本語ラップのシーンが抱える病理を突っついてくれても面白かったかな、と思う。 テーマがでかくなってる分、攻撃対象がちょっと散漫な印象。 今言いたいことをスピットした、って感じはよーく出ている。 BLのトラックもいつも以上に壮大で、このマッチは分かってるコンビだからこそのもの。 四つ打ちテイスト、バッキバキのダンスチューン「FASHION」はかなりお気に入り。 このポップさ、アッパーなテンポはいまだかつてなかったし、ズンズン速めの鼓動を刻むキック、キラキラなウワモノ、シンプルだけどめちゃくちゃ乗れる。 イントロのシリアスなピアノを使ったギミックといい、フェイクなストリートを切るリリックの曲を、遊び心満載のトラックと、それに合わせた力の抜けたフロウで聴かせるところなんか、さすがだと思う。 基本ポジティブにやりたい、という今のシーダだからこそ生まれた曲。 ルナのナスティーな歌声によるフックは宇多田にも通ずる味わいがあって、かなり気持ちいい。 OKIの「マリオネット」といい、いいラップのいいアシストをするなあ、ルナ。 ルナのアルバム、絶対に聴こうと思う。 コミカルでファニー、お子ちゃまのお遊戯でも使えそうなピアノループ+ぶっといベースにエレピ音が足されたサウストラックで酔っ払い賛歌(?)を披露する「SO HIGH」はいろんな意味で浮いた存在。 グダグダライフを歌った曲だけに肩の力の抜け具合は相当だが、ちゃんと聴いてみると、ヒップホップと麦芽のホップをかけるラインをはじめ、見逃せない言葉遊びも詰められている。 太い音で広がりのある空間を作り、ハンドクラップ刻みながら、ピアノとエレピで美しいウワモノを乗せる。 サビではギターをジャーンと鳴り響かせて盛り上げる。 ここ最近はエレクトリックなサウンドに傾倒していて聴けなかった、いかにもBL印なミッドテンポのトラックが気持ちよすぎる「HELL’S KITCHEN」はグッド・ミュージック・ジャンキー必聴のクオリティ。 玉石混合、いろいろありすぎる世界の中で「一番のスパイスは思いやり」と言い放つシーダ。 この曲の温かさこそがアルバムを象徴している。 「地球もオレもまだまだ青い」という、宇宙飛行士バリの名言を残したサイプレス上野の名演ぶりもポイント高い。 一転して緊張感高い、無機質なサウンドが煽り立てる「オチツカネエ」もまた、BLならではのミニマムなサウンドで、テーマにぴったりの人選が成されたマイクリレーは出色の出来。 何気にこの曲が一番リピート率高い。 要はかんぐりすぎ、っていう話なんだけど、「落ち着きてえけど 落ち着けねえ」というシーダとエッセンシャルの2人がフックを歌い、助けを呼び求めるかのように呼び出したのがかんぐり界のトップランカー・スティッキー。 スティッキーが例の調子で「汗ばむ手 震える声 ポケットのパケ 胃の中の酒」と淡々と紡ぎ、そのあとに「まあ落ち着け」と言われても、こっちのどきどき感はマックスですってww テーマ、人選、さらにスキルもマックスで、テーマこそ遊びの範疇だけど最高にカッコいいマイクリレー。 これこそヒップホップだよ。 さらに硬質、スリリングさを増した重めのトラックでお決まりのおキマリネタの「GO HARD OR GO HOME」。 このヘヴィネスはなかなかのもので、ここに重量級MCの4WDフィーチャーってのは王道にして正解。 それにしてもham-Rことハマーって人が気になる。 巻き舌も、英語の使い方も。 音作ってる人のラップでここまで気になるのって、それこそBL以来だな。 シーダの「俺の人格は2face以上」ってのが頭から離れない、中毒性の高い曲。 ISSOとのユルユルスキットaka茶番wwが入り(不定職者ネタが良かったんだけどな。バイト週3の話)、続く「BLUE BIRD」はこれまた一転して超ピースなトラック。 自身を鳥に例えたリリックはまさに、空を飛ぶような自由さがにじみ出ている。 擬音を織り交ぜたスキルの面でも、既定の価値観に縛られないという気概が感じられるリリックの面でも。 そんな自由なシーダがBLとともに選んだ最強メンバーで送るマイクリレー、「GOD BREATH YOU KID」は、09年版証言、は言いすぎかな、いや、それくらいのパワーはあるな。 ちょっと逸れるが、「証言」はDJ YASの漢のワンループの味があったりするから、BLの全力で鳴り響くピカピカでビンビンなシンセサウンドと比べるのが間違ってる。 アンサインド・ハイプが息をまく前半と、現行シーンのトップMCが貫禄を見せる後半、甲乙つけがたい。 ブロンクス在住の日本語ラッパー・モンドーのギラついたバイリンガルスタイルはとにかく新鮮で、1番バッターの大役を十二分に果たしている。 独特の言葉回しが「GO HARD OR GO HOME」に続きここでも炸裂するハマーのヴァースはやはり、胸がそわそわする何かがある。 この順番で3番目に出てくると無類の安定感で早くもベテランの風格があるシーダだが、古いはずはなく、まだまだフレッシュでエネルギッシュにこなし、この豪華ポッセカットを引っ張る。 んで、個人的にこのマイクリレーでダントツで優勝なのが、4番バッター、シズーのヴァース。 放ち系、投げっぱなし系、余韻系。 称するならそんなとこだが、きっちり小節のケツケツでライミングしてくる安心感のあるリズムと、トラックではよくあるんだが、言葉少なでも余韻で隙間を埋めてくる一語一語の強度がアメリカサイズ(実際英語は多いんだが)。 「神の教え子がもつニックネーム ZOO BOYビッグネーム 勝ち取るビッグゲーム」というインパクトありすぎなイントロダクションから、「突き刺さるフロウ 衝撃で見るものすべてがスロー」と中盤で文字通り突き刺したかと思えば、「確実にここには本物がいたと お前の子供たちに教えてやりな」と締める。 圧巻。 5番から始まるOKI、ノリキヨ、BESのクリーンナップはさすがの貫禄。 低く抑えながらも確実にノらすグルーヴあるOKIのフロウ、ノリキヨはもはや勢いを必要とせずにブルースが伝わるし、変わらず圧倒的なフロウで飲み込み、かつ、愛のあるリリックまで備えて無敵のBES。 やっぱ、こう並べてみてもこのメンツでこのリレーは凄すぎる。 先行配信で初めて聴いたときは無料だったからかww、そこまで感動しなかったけど、重いまま走るトラックとあわせ、聴きこむごとに味が出てきた。 いよいよ大詰め、ラスト2曲はエンディングに相応しく、リラックスしながらしっとり聴ける柔らかさ。 TYC aka SKY BEATZが手がけたピアノの温かい音色が優しい手触りを与えてくれる「JUST ANOTHER FEELING」。 何気ない今の日常を自分の視点、路上の犬に自分を被せた視点と綴り、最後のヴァースではハッスル稼業の一線を退いたシーダとその距離感を綴る。 これもまた、今を歌う、今を生きるラッパー、シーダならではの曲。 「夢からさめたら」もグっとくる。 切っては切れないお姉さんへの想いを夢に被せた歌いだし、自身の過去にまでトピックを広げ、それらを大切にしつつもけじめをつけ、今を活きるポジティブさ。 ビギーに捧げられた「I’ll be missing you」に通ずる80’sサウンドと、それに合わせるかのようにこぶしの抜けたジェイドの歌声が華を添える。 ボーナストラックで付け加えられた「6 MILLION WAYS」を聴いて、オレはシーダの未来へ期待するのをやめない、という気になれた。 今も昔も変わらずいい音楽を作るだけ、畑の違うリディムの上でそう言い放つシーダの声を聴いて、この人、ラップ辞められるはずがないと思う。 アルバムに入りきらなかったテイク(シングル化されるとのこと)をダウンロードさせてくれた「SEEDA」という曲にしたってそうだ。 ジェイZやゲームのような、向こうの辞める辞める詐欺と同じかどうか、そんなのはどうでもいい。 このアルバムは、今、2009年の今、言いたいことがたくさんあって、それを良いビートに乗っけて形にしたい、そんな純粋な思いで満ち溢れている。 同じようにこれから先もきっと、言いたいことがあればラップするだろうし、良いビートに出会えばラップせざるを得ないだろう。 こういうシンプルで、ポジティブなエネルギーが一番強い。 ポジティブでなくてもいい、怒りや嘆き、悲しみがベースにあってもいい。 でもラップしたい、良い音楽を作りたい、ラップが好き、良い音楽が好き、そういう思いがなければ良い作品は生まれない。 売れたいだけのやつに売れる音楽は作れない。 売れた人は良い音楽こそが売れるってことを知っている。 シーダは「6 MILLION WAYS」に初期衝動を込めた、ってセルフライナーノーツで書いてたけど、曲にして封印、なんてことにはならないよね? 初期衝動ってなくならないもんだもん。 「復活する時は世界で勝負してきます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「HIPHOPが大好きです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「引退」を綴ったブログ記事の最後の2行。 これが本当だとしたら、心の底から応援したい(超陰ながらだけど)。 TERIYAKI BEEFは勘違い、聞き違いがきっかけだったのかもしれないけど、根底にあるのは世界で勝負したい気持ちなんじゃないかな。 オレはテリヤキボーイズそんなに下手だと思わないけど、チャンスの掴み方はアレだし、乗っかり方が無邪気すぎなのは気に入らない。 日本以外で盤を出す権利を得てるけど、何か見せてやろうっていうのはあったのかな? カニエやファレルと楽しくやってるのは伝わってきたけど、シリアスにジャパニーズをレペゼンしている雰囲気はまったくなかった。 どこで読んだか聞いたか忘れたけど、「ヒップホップが黒人たちだけのものだと思われてる」ことにアンチテーゼ、楔を打ちたいみたいな思いを打ち明けていたような。 そんな真剣な思いを前に、あの「シリアスジャパニーズ」は笑えなかったんじゃないかな。 どういう形になるかは皆目見当つかないけど、シーダらしいスタンスで、シーダならではのスタンスで本場のヒップホップに挑んでくれるのならば、シーダの日本語ラップが聴けなくっても我慢する。 ネットを使えばアピれるし、勝手にフォローしまくるよ、絶対。 シーダはガキの頃、日本人初のプレミアリーガーになりたかったみたいだけど、少なくともオレにとってはプレミアリーガーと変わらない、ヒーローです。 アルバムを発売日に買って聴いたとき時点で、このアルバムへの思いは変わらない、マジでいいアルバムだと思う。 長くなったけど、言いたいことは全部書ききった。 あとは信じて待つ、それしかできないからね。
by blue-red-cherry
| 2009-06-09 18:36
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