SR サイタマノラッパー

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号泣メーン!

泣く子も黙るシネマハスラーが掛け値なしの賛辞を贈った映画「SR サイタマノラッパー」を、何度目かのアンコール公演を開催中の渋谷・ユーロスペースのレイトショーにて鑑賞。

件のシネマハスラーも聴いていたし、各所での高評価も目にしてきた。
先入観がなかったとはいえないが、素で楽しめ、素で考えさせられた。
キラキラやドキドキで誤魔化されない、痛さや息苦しさで満ちた、真実の青春映画がここにある。





今度のライブの方向性、どうする?西海岸系でいくか、東海岸系でいくか?
海ないっすけど。サイタマ。

っという掛け合いですっかり知られた埼玉のど田舎・フクヤ市(深谷市)での物語。
今でこそ多様な広がりを見せている日本のヒップホップだが、それでも東京が中心地であることに疑いの余地はなく、地方都市にしても大阪や名古屋、博多、札幌と、大都市レベル以外はどこもこんなもんだろう。
レコ屋もねえ、ライブハウスもねえ、機材もなければチャンスもねえ。
でも、夢だけはある。
ニートのIKKU、おっぱいパブでバイトするTOM、ブロッコリー畑を営む農家のボンボン・MIGHTY。
彼らはヒップホップのカッコよさにヤラレ、ラップしたい、オレもエミネムみたいに、2パックみたいに、韻神(劇中にて伝説のラッパーとして崇められる)という衝動と、いかんともしがたい20代前半の埼玉のど田舎で暮らす現実。
物語はこの鮮やかで残酷なコントラストを繰り返し描きながら綴られていく。

ど頭からハイエースにすし詰め状態のBボーイどもが、カーステ全開のラップに揺れながらのニューサイタマドライブ。
たどり着く先は「ぼくらの七日間戦争」ばりにオンボロアジトな廃工場。
あーでもない、こーでもない、と夢を語りながら、結局誰も動けない。
いきがりとくすぶりの間で悶々とした日々を送る、全男子共通の煩悩が幾重にも折り重なる。
好きなことをやりたいだけ。
ビシっと迷彩にティンバーのブーツで決めて(イエローヌバック履けてないあたりが泣ける)、チェーンを下げてカッコよくラップして、男にも女にもモテたいだけ。
それなのに、夢を目指すだけなのに、悪いことしてるわけじゃないのに、大人が、仲間が、女が国が、ちっぽけな夢の妨げになる。
夢を目指すことって美談として語られることが多いけど、ただ物理的な困難を乗り越えていくだけじゃなくて、その夢が輝けば輝くほど色濃く出る、現実との距離感、虚しさとの戦いでもある。
一握りの選ばれた人間を除けばそれは、程度の違いこそあれど誰もが味わう苦さだ。
IKKUと仲間たちのやりとりは馬鹿馬鹿しくて、滑稽で、事実劇場では堪え切れなかった観客の笑い声があちこちで沸きあがる。
しかしそのすぐあとに訪れる現実との直面のシリアスさは言葉に出来ないリアリティがあり、一転、水を打ったような静寂に包まれる。
ラジカセで鳴らすいかしたビートを仲間同士で「ヤバくね?ヤバくね?」と堪能しあい、一人ヘッドフォンから流れる爆音に酔いしれ、埼玉の寂れた景色をクイーンズのプロジェクトに重ねて歩く道のり、ヒップホップに酔いしれる夜はいつだって空を駆けてるような気持ちよさ。
しかし一歩、その夢心地から踏み出せば、あっさりチンピラにボコられ、仕事もなければ金もない現実が待っている。
青春とは甘酸っぱいもの、だとは言いえて妙だが、酸っぱいどころか、苦いことだらけだよ、本当は。

いけてないSHO-GUNGの面々のいけてなさをより際立たせる存在として、IKKUとTOMの同級生にして、一足先に郷里を離れて上京、AV女優を経験し、またフクヤに戻ってきた千夏の存在感も外せない。
あくまで主役はIKKUとその仲間たちなので、彼女が(その設定の割りに)一面的にしか描かれないことに物足りなさを訴える向きもあるが、甘さを際立たせる塩、アクセントとしての役割はきっちり果たしている。
秘かに(というかダダ漏れだがw)思いを寄せるIKKUに対し、終始冷たく、厳しく当たる姿勢は、憧れの女性であるとともに母であり姉であり、ほっとけなさを感じさせる奔放な振る舞いは妹のようでもある。
男が夢を語る上で、女の存在は外せない。
あるときは夢そのものであり、あるときは支えになり、あるときは厄介な現実でもある。
そういった映画全体の文脈としてもそうだし、同級生を「オマエ」呼ばわりするあのヤな感じの女子感を絶妙に演じてたね、みひろ。
もう、このみひろの演技が素晴らしい。
単純に造形美として美しいのは周知の事実として、演者としての高いスキルを存分に発揮していた。
特に工場でIKKUと、無言でSHO-GUNGの曲を聴くシーンと、IKKUと別れ、再び東京に戻るシーン。
実際みひろ自体がAV女優であるがゆえに、「AV出てるくせに」というIKKUの弱さゆえのディスりへの対峙におけるリアリティはハンパじゃなく、そこで折れない芯と、隠しきれない痛みがにじむ表情にはグっとくる。
あそこは寄りで見たかったな。
そんなに出演シーンは多くないが、彼女の好演が強く印象に残った。

頭に書いたように、この映画はキラキラしてない(けど、キラキラしてるかも)、表面的ではない真実の青春を傑作映画だ。
大きなファクターである夢は、もしかしたら「日本語ラップ」じゃなくても良かったのかもしれない。
しかし、いち日本語ラップファンの目から見て、赤裸々なそれの描き方は、監督の並々ならぬ日本語ラップへの愛を感じた。
宇多丸氏も絶賛していたように、日本語ラップを描くならば、その滑稽さと、その本質、両方を描かないとエンターテインメントとして成立しない。
入江監督は日本語ラップ畑の人に怒られないか、心配だったようだが、まったくの杞憂だったと思う。
型にハマったヒップホップを目指さんとするIKKUが政治や事件性をトピックに求め、大風呂敷を広げる様は地に足ついておらず、本人とのギャップは滑稽そのもので、本質を伴わないスタイルは「ごっこ」であり、みひろに「宇宙人かよ」と突っ込まれて当然。
ヒップホップはアイデンティティーを発する音楽なのである。
試行錯誤を繰り返し、芽は出ず、辛酸ばかりを舐めさせられたIKKUがラストのシーン、衝撃のフリースタイルのシーンで歌うのは飾り気なし、裸一貫、フクヤのダサいラッパー・IKKUのセルフボーストだ。
最後のシーンでこの、ひとつの真理にたどり着いたことに感動を覚えざるを得ないし、また同時に、IKKUとTOMがスピットするリリックはまさに魂がこもった言霊で、この音楽が言葉を伝える、言霊の音楽としての可能性を秘めていることを教えてくれるようにさえ思えた。

埼玉のくすんだ情景を映し出すのに、鮮明でダイナミックなフィルムは必要ない。
痛さを孕んだ日常の一こまを描くのに、VFXやドルビーサウンドは必要ない。
低予算映画だからこそ、持たざるものだからこそ、何かを伝えようとするスキルの高さがうかがえる。
最新鋭の技術はものごとそのもの(風景とか)を伝えることに長けているが、物語の本質や、人の内面なんかを伝えることの難しさは古くから、映像技術だけでは解決できない。
スムースな編集技術がないことを逆手にとった長回し、一発撮りは日常の1シーンに潜む機微を余すところなく拾っているし(衝撃のラストシーンの長回しに漂う緊張感ったらない)、仰々しいストリングスが煽らない静かな世界は、台詞やモーションが生む余韻を存分に楽しませてくれる。
先にも書いたが、プロット的な部分だけではなく、映像の部分でも楽しく笑えるシーンと、ひたすらに切なく胸に迫るシーンのコントラストが恐ろしいほど鮮やか。
釣り人ラッパーの魚ラップは秀逸だし、神がかった病弱ぶりと神々しいオーラを発したTKD先輩の描き方も圧倒的。
細かいディテールに忍ばせた笑いの要素だけでおなかいっぱい。
ユーモアたっぷり、ひとつのハイライトであるフクヤ市ピープルの前でのライブシーンの滑稽さと痛さは正直、TOMの弱さやMIGHTYの軽さがアシストして際立つIKKUのダサさが極まり、残酷すぎて泣ける。

本、演者、演出とほぼすべての面で感動した。
でもオレ程度の浅い映画経験値では、一回目のラストはその投げっぱなしなピリオドの打ち方に圧倒されて、泣けなかった。
衝撃的に痛く、カッコいいラストシーンをあの形で終えられ、見ながらその後の成功なり挫折なり、安易な展開を思い描いていたばっかりに、唐突な終わり方についていけなかった。
だからあのシーンのエグさ、美しさに気づいたのもエンディングの曲が終わって、一緒に観たダチと感想を話しながらのことだった。
だからたぶん、もう一度この映画を観て、あのラストシーンにたどり着いたら、その意味をかみ締めてきっと、号泣メーン。

しかし入江監督、年下っすか。
その事実にも泣ける。
だってこの映画、そりゃ宇多さんとかいとうせいこうさんが「あったあった、オレたちにもいけてない時代があった!」っていうのはわかるよ。
でもオレ、彼らが20代前半でくすぶってたのを単純に懐かしんで笑えないのよ。
オレだって今、30過ぎて何か自慢できる人生かっつっつたら、まだまだ悩んでるしくすぶってるわけで。
そういう意味でのキツイ感動もあり、とにかく観てよかったと思う。

そうそう、曲もいい。
「教育、金融、ブランニュー」は教育委員会や市役所職員前で歌ったからというシーンを差し引いてもいいメッセージをキャッチーに乗せられている。
エンディングテーマというかメイン曲の「俺らSHO-GUNG ~サイタマノラッパーのテーマ~」がいいんだよねえ。
特にブリッジのピアノの泣ける旋律!
R.I.P.TKD先輩、あんたすげえよ。

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by blue-red-cherry | 2009-06-25 12:15 | 映画
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