久しぶりの読書感想文。 西部謙司氏の「サッカー戦術クロニクル」。 サッカーを本格的に見出したのは92年。 違うきっかけで入ったWOWOWで放送していたセリエA、まだミランにオランダトリオがいたころのセリエA。 日本ではスポーツ観戦好きな親父に連れられ、Jリーグ前夜のJSL、西が丘で読売や日産の試合を見たり、開幕前年のナビスコカップを見に行ったり。 初めての代表戦はオフト初陣、国立でのアルゼンチン戦だった。 そこからのめりこむのは早かったが、実はそれ以前を掘り下げることはほとんどしていない。 ワールドカップは94年からだし、クラブ、代表、どちらも92年以前、80年代も70年代もほとんど見たことなければ知識もない。 このようなオレみたいな新参にとって、この本は一部で教科書的に、しかししっかりと読み物として楽しめる一冊だった。 伝聞と、イメージでしかない74年、クライフの、ミケルスのオランダ代表が繰り広げたトータルフットボール。 “ボール狩り”の概念を貫き、すべてのポジションが崩れていく様は圧巻だ。 現代の下がってくるフォワードのスペース作りに通ずる、クライフと仲間たちのローテーションアタックは字面を追いかけているだけでワクワクしてくる。 このように、この本ではチャプターごとにその時代を代表する人、もしくはチームのサッカーを、目の前にピッチが広がっているかのように躍動的に描くと共に、冷静にそのサッカー的時代背景や、進化の歴史をバックグラウンドとしてきちんと描くことで、深い納得感と、ことあるごとに現代サッカーとの対比を挟み込んでくれるので、活きた知識として吸収できる。 多少の前後はあれど、74年のオランダ代表をスタートにクラブではサッキのミラン、クライフのバルサ、ファン・ハールのアヤックス、ギャラクティコ・レアル、モウリーニョのチェルシーからハードワークの現代へと追いかけていき、代表チームではペレから黄金の中盤にいたるブラジル、マラドーナのアルゼンチンなどに焦点を当てている。 それぞれ個性的なスタイル、ドラマティックな背景を持つエピソードが散りばめられるが、そこを繋ぐ軸がしっかりしているのでブレない。 本書のテーマであるトータルフットボール。 要は全員攻撃、全員守備。 ゲームの中の様々な状況に対応して変化していく究極のサッカーゆえに、その時代時代、場所場所の解釈があって、その遺伝子は歴史を彩ったエポックメイキングなサッカースタイルのあちこちで見られるということ。 プレッシング、オフサイドトラップ、ローテーションアタック、ワイドアタック、ポゼッション、マルチロール…。 究極のサッカーを実現するにはおよそサッカーで必要、有効とされている方法論のすべてが網羅されるべきであって、それは現実的に不可能ゆえに、その要素のどこかを尖らせたチーム、トレンドが歴史を重ねてきているのがよくわかる。 プレッシング、ゾーンディフェンスの礎を作ったサッキのミラン。 10番をウイングに置き、ピッチをワイドに使いながらトライアングルで結びつけた攻撃サッカーを実現したクライフのバルサ。 より強固で戦術的な守備ブロック作りに成功したモウリーニョのチェルシー。 理想に近づかんとし、どこかが足りないチームの進化の歴史は、必ず対抗馬が現れては塗り替えていくことの繰り返しで、徐々に理想形に近づいている。 一方でトータルフットボールは偉大なる個の歴史でもある。 クライフは象徴だが、その後に現れたマラドーナやジダン、ドログバといった選手たちは、1/11以上の存在感で全員攻撃、全員守備に近いサッカーの実現を促進し、また、戦術をぶち破ることにより進化を促している。 西部氏は、戦術の進化は、時代やその時代を生きる選手たちの進化による、ともしている。 スーパースターがハードワークを厭わない、攻守両面にスーパーな動きを実現する今の時代はまさしく、人が戦術に順応し、人にあった戦術が求められている時代ともいえる。 すべてのチーム、すべての選手が現代サッカーに繋がっている。 終章に収められたトータルフットボールの起源、74年のオランダ以前のトータルフットボールの源流についての物語が面白い。 考証材料が少ないこともあるのか、ことプレーの記述より、人や歴史背景に関するものが多く、随一物語的要素の強い章になっているが、それゆえ人が築いてきたサッカーという側面が浮き彫りになる。 ここで紹介されたサッカー、チームについて、映像が残っているものはできるだけ見てみたいと思っている。 トータルフットボールを軸に、膨大な量のサッカー知識を、実に読ませる内容で得られる。 サッカーファン必読の一冊。 これを読めば、サッカー観戦が間違いなく楽しく、深いものになる。 サッカーは知れば知るほど面白い。 続巻も手元にあるので、楽しみに読ませてもらおう。
by blue-red-cherry
| 2009-09-19 14:12
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