![]() 各所で激賞されているアナーキーの2ndアルバム「Dream and Drama」。 ラッパーやDJ、ヒップホップを扱うメディアのほぼすべてが賞賛を送り、日本語ラップの「希望」と賞する流れに何かしらのプロパガンダ的臭いを感じたオレのようなヤツこそきちんと聴くべき。 思わず赤面しそうになるくらい素直で真っ直ぐなパッションとエナジー、ヒップホップと向き合い、まっさらの自分をさらけ出す若きMCの作品は「希望」に満ちている。 Fate=運命、宿命。 推し曲である「Fate」に代表されるようにそのメッセージの大半は、彼、アナーキーが生まれ育ち今も居を構える向島とアナーキーの過去・現在・未来。 切なく響く早回しのサンプリングボイスをアクセントに、与えられた環境への愛と不満の葛藤が綴られる。 著書「痛みの作文」は未見だが同義のことを歌ったという「Composition Of Pain」も聴き応えがある。 自分と自分のフッドを、その出自から今、変わったようで変わらない関係を歌う。 イントロから転調してその後最後まで、サビなしのアナーキーのスピットに同調して奏でられる哀愁だらけのギターがハマる。 Tinaのソウルフルでファンキーすぎるボーカルをフィーチャーした「Drama King」も同様にフッドの景色が描かれるが、これなんかはもはや演歌の域だと思う。 四畳半のボロアパート、毎日働くスクラップ工場、オンボロストーブに一枚の毛布。 ブラックムービーを彷彿とさせるピアノループのトラックも一躍買っているが、目に浮かぶ寂しげな情景。 その世界観は、それでも前を向いて進んでいくアナーキーのラップと相俟って、ブルースであり演歌の存在感を醸し出す。 余談だが、深夜のクラブサーキットにインストアライブ、オレは随分前から日本のヒップホップは演歌的だと感じてきた。 アナーキーのラップは最近のテクニカルな若手ラッパーに比べるとそれほど器用ではない。 しっかりメッセージを込めたりストーリーを作りながらもかちっと要所要所で踏んでくるライミングは大したスキルだが、フロウの種類が多いわけでもなければ声色を変えることもない。 語彙が足りないわけではないが、選ぶ言葉も平易だ。 この辺はアメブレークのインタビューでも語られているのでそっちを参照のこと。 アルバム通じて変わらないスタイルは一本調子と取られかねない。 割と詰め込みがちなスタイルはともすれば重くなる。 しかし一語一句に対する思いっつうかなんつうか、熱が入った歌い方、ラップの仕方。 ソウルフル。 訴えかけてくるものがある。 だからフッドの歌は知る由もない向島の団地を想像させるし、マイクものには鬼気迫るものがあるし、そして希望を歌う歌には恥ずかしくなるくらいのポジティブなヴァイブスが伝わってくる。 この辺は天賦の才なのかもしれなく、そして多くの人をひきつける所以なのかもしれない。 遅めのクラップ刻むダウンビートに迸るエナジーを言葉に込めて言葉をまくし立てる「Blood In Me」のように、ストレートなヒップホップ然とした曲もまた映える。 ここは単純にカッコよさを感じるところ。 「俺の悪魔が目覚ます前に」というラインが頭にこびりつく「Devil」も同系統。 音で言えばアルバム中唯一シンコペってるバウンスビート、ここも変わらずアナーキー節で乗りこなす。 どんなトラックでも貫きとおすスタイルはある意味トラックを選ばず、鳴りの、聴こえのよさでもチョイスされるカッコよさを携えている。 高らかに幕を開ける「Awakeing」にしても、単純にカッコよさを感じる。 かすかにハスキーな声質、これもタレントのひとつだが、その声が最大限活きるような、歌うようにテンションが波打つ発声が魅力を増している。 「Awakening」が端っから決定付けるひとつの方向性。 オレは初めてこのアルバムを聴いたとき、「若い」と思った。 それは貫き通すフロウだったり、端々にみなぎるエナジーだったりもそう。 だが、ここまでひたすらに夢を語られて歯の浮く思いをした、というのが正直なところだ。 今自分の夢がどうこうってそんな話をするつもりはないが、三十路のオレにはいろいろとまぶしかった。 で、数回聴いてるうちにふと思った。 このアルバム、あのいかついゲットー・ボーイのアナーキーのこのアルバム、子供たちに向けられて作られてるんじゃないかって。 いや、そりゃ彼のファンはオレくらいの30前後、その上のさんぴん世代だってたくさんいるし、その人たちを喜ばすのに十分な日本語ラップだと思うよ。 でもこの平易な言葉をカッコよく聴かすラッパーは、子供たちにとってヒーローに映るんじゃないかって。 決して恵まれていない出自から這い上がるストーリー。 失われることないフッドやファミリー、クルーへのラブ。 下を向かず夢を追いつづける強さ。 これを聴いて中学生とかが憧れたり。 それって今この音楽、日本のこの音楽の所謂シーンと呼ばれているところで誰も出来てないことだし、欠けてることだし、ゆえの「希望」にはまったくもって納得だ。 「60 Bars Dream」に描かれているようなシャンパン、ヴィトン、リムジンとかそういう世界はどうもピンとこないがそれは個人的な価値観なので置いといて、ラスト、「Sky Limit」ではストレートに子供たちに呼びかけている。 「どんな人生も馬鹿にされちゃダメ」、「へし折ってやれ大人のものさし」、「子供なら何にだってなれる」と、一曲通じて放たれるメッセージ、これを子供たちが聴いて喜ぶ姿が目に浮かぶ。 バンダナにバギージーンズ、ぎっしりのタトゥー。 ゲットーボーイは伊達じゃない、というイメージがあった(今もそれは彼の一面だろうけど)アナーキーのアルバムにこの展開は予想してなかっただけに驚いた。 そして誰かがやってるかもしれないが、この音楽がこの国でやっていく、自分たちのやりたいことを曲げないでやっていくひとつの試金石になりそうな作品との出会いに驚いた。 改めて周囲のざわめきも納得したわけだ。 これがすべてではないだろう。 外国勢が脇を固めたトラックは一貫性があるし鳴りは本格的だしバラエティに富んでるし、あたりだったが、それゆえにほかの可能性も期待してしまう。 隙がないアルバムかといえば、細かいディテールに気になるところもなくはない(男声ボーカルが聴くたびにドキっとしちゃったりとか)。 でもこれがすべてではない。 3枚目があって、4枚目があって、未来は暗くない。 アナーキーの未来もまた、「何にだってなれる」んだから。
by blue-red-cherry
| 2008-09-20 01:20
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